- 2020-11-28
- 最新情報
- 3D bioprinting, 3DPrinting, 3Dプリンティング, Medical, テクノロジー, バイオ, バイオマテリアル, 再生医療, 医療
バイオ3Dプリンタを用いた末梢神経損傷に対する三次元神経導管の医師主導治験の開始
京都大学医学部附属病院整形外科(松田秀一教授)、京都大学医学部附属病院リハビリテーション科(池口良輔准教授)、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻(青山朋樹教授)は、株式会社サイフューズとともに、末梢神経損傷に対する新しい治療法としてバイオ3Dプリンタを用いた神経再生技術の開発に世界で初めて成功。そしてこの度、京都大学医学部附属病院先端医療研究開発機構(iACT)、細胞療法センター(C-RACT)と共に、手指の末梢神経損傷患者さんに対する医師主導治験を開始。
1. 背景
従来の末梢神経損傷に対する治療は、自己の健常な神経を犠牲にする自家神経移植が主流で、自家神経を犠牲にする治療を回避する目的で人工神経の開発が行われているが、自家神経移植術を超える成績は得られていないため、一般には普及していないのが現状である。京都大学医学部附属病院整形外科では、これまで末梢神経損傷に対して人工神経を用いた治療研究を実施。しかし、人工神経には細胞成分が乏しく、サイトカインなどの再生軸索誘導に必要な環境因子が不足しているといった理由から、自家神経移植と比較して良好な結果を得ることができていなかった。本研究グループは、中山功一教授(佐賀大学)、株式会社サイフューズとの共同研究により、バイオ3Dプリンタを用いて細胞のみで作製した三次元神経導管をラットの坐骨神経損傷モデルに移植することで、人工神経より良好で自家神経移植に遜色ない結果を得ることに成功(論文1)。これは、線維芽細胞から作製した三次元神経導管より放出されるサイトカインや血管新生によって、良好な再生軸索の誘導が得られた結果(論文2)と考えられる。
2. 研究手法・成果
非臨床 proof of concept (POC)確立のため、日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム(シーズB)、京都大学医学部附属病院先端医療研究開発機構の支援を得て、非臨床有効性、非臨床安全性試験(論文3)を実施し、医学部附属病院の医薬品等臨床研究審査委員会(治験審査委員会)の承認を得て、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届を提出。また、サイフューズ社の開発した臨床用バイオ3Dプリンタを、京都大学医学部附属病院C-RACT内の細胞調製施設(CCMT)に設置し、治験製品製造準備を行い治験実施体制を整えてきた。
3. 今後の予定
京都大学医学部附属病院整形外科は、手指の外傷性末梢神経損傷に対して、臨床用バイオ3Dプリンタを用いて製造した三次元神経導管移植の医師主導治験を実施。治験の同意取得後に、患者の腹部または鼠径部から皮膚を採取し、約2か月かけて三次元神経導管を製造し、神経損傷部に移植。
対象疾患
外傷性末梢神経損傷
- 外傷等による末梢神経断裂・欠損部位が手関節遠位にあるもの
- 受傷日より6か月以内に登録が可能であるもの
- 人工神経移植、および自家神経移植を希望しないもの
- 同意取得時の年齢が20歳以上60歳以下の男女
治験実施体制
主任研究者:松田秀一(京都大学医学部附属病院 整形外科 教授)
自ら治験を実施する者/治験責任医師:池口良輔(京都大学医学附属病院 リハビリテーション科 准教授)
治験製品製造責任者:青山朋樹(京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 教授)
治験製品製造協力者:秋枝静香(株式会社サイフューズ 代表取締役)
治験製品製造施設管理者:長尾美紀(京都大学医学部附属病院 C-RACT副センター長・臨床病態検査学 教授)
4. 研究プロジェクトについて
本治験は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム(シーズC)「末梢神経損傷を対象とした三次元神経導管移植による安全性と有効性を検討する医師主導治験」の支援を受けて実施。
研究者のコメント「末梢神経損傷を受傷したことによって、思うように手が使えなくなって仕事ができないなど苦しんでおられる患者さんや、神経移植のために神経を採取されて痛みが残ってしまった患者さんが多数おられます。それらの方々が元どおりに社会復帰できるように、本研究はお役に立てると思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。」
論文1
タイトル:The efficacy of a scaffold-free Bio 3D conduit developed from human fibroblasts on peripheral nerve regeneration in a rat sciatic nerve model.
著者:Yurie H, Ikeguchi R, Aoyama T, Kaizawa Y, Tajino J, Ito A, Ohta S, Oda H, Takeuchi H, Akieda S, Tsuji M, Nakayama K, Matsuda S.
掲載誌:PLoS One. 2017 Feb 13;12(2):e0171448. DOI: 10.1371/journal.pone.0171448.
論文2
タイトル:Mechanism of peripheral nerve regeneration using a Bio 3D conduit derived from normal human dermal fibroblasts.
著者:Yurie H, Ikeguchi R, Aoyama T, Ito A, Tanaka M, Noguchi T, Oda H, Takeuchi H, Mitsuzawa S, Ando M, Yoshimoto K, Akieda S, Nakayama K, Matsuda S.
掲載誌:J Reconstr Microsurg. 2020 Sep 21. DOI: 10.1055/s-0040-1716855.
論文3
タイトル:The efficacy of a scaffold-free bio 3D conduit developed from autologous dermal fibroblasts on peripheral nerve regeneration in a canine ulnar nerve injury model: A preclinical proof-of-concept study.
著者:Mitsuzawa S, Ikeguchi R, Aoyama T, Takeuchi H, Yurie H, Oda H, Ohta S, Ushimaru M, Ito T, Tanaka M, Kunitomi Y, Tsuji M, Akieda S, Nakayama K, Matsuda S.
掲載誌:Cell Transplant. 2019 Sep-Oct;28(9-10):1231-1241. DOI: 10.1177/0963689719855346.
関連記事
- 大阪大学、ナノ絹糸ベースの3Dバイオプリント技術を開発
- 抗菌作用フィラメント『MD Flex』販売開始
- 抗菌作用フィラメント「PLACTIVE AN1」
- モーションキャプチャー技術を使って臓器にセンサーを3Dプリント
- 人間の細胞を使用して3Dプリントされた「3D角膜」
- 世界初の3Dプリント角膜開発に成功
- 3Dプリント角膜が失明から患者を救う
- パーキンソン病等の治療に役立つ導電性3Dプリントインプラント
- 抗菌フィラメントを使った3Dプリントマスク「NanoHack 2.0」
- 複雑なガラス形状を生成できる3Dプリント技術
- BMFが高解像度マイクロスケール3Dプリンタを発表
- MIT、軟組織の治癒をサポート3Dプリントメッシュを開発
- CELLINKがバイオ3Dプリント用モデルキットを発売
- 韓国化粧品会社が3Dプリントスキンケアクリームを開発
- 人間の細胞を使用して3Dプリントされた「3D角膜」
- Aleph Objectsがバイオ3Dプリンタをリリース
- 世界初!患者の細胞から造られた3Dプリント心臓
- 欧州最大の3Dバイオプリンティング施設
- 病気や火傷で傷ついた皮膚を治癒する3Dバイオプリンタ
- 高齢者介護施設で3Dプリント食品を提供
- 3Dバイオプリント技術で人の心臓組織を生成
- 3Dプリントマスク「PITATT 3D print mask」に2つの新バージョン登場
3DP id.arts の最新投稿をお届けする「Newsletter 3DP id.arts」への登録はこちら
最新情報をお届けします
Twitter でid.artsをフォローしよう!
Follow @idarts_jp