バイオ3Dプリンタ製人工血管を移植する臨床研究を開始

佐賀大学、バイオ3Dプリンタで作製した「細胞製人工血管」を移植する再生医療の臨床研究を開始

佐賀大学医学部附属再生医学研究センター 中山功一教授、佐賀大学医学部胸部・ 心臓血管外科 伊藤学助教及びサイフューズは、独自に開発したバイオ3Dプリンタを用いて作製した「細胞製人工血管」を世界で初めてヒトへ移植する臨床研究を開始した。

スキャフォールドフリー細胞製人工血管

これまで、佐賀大学医学部附属病院では、サイフューズと共同で「スキャフォールド(足場材料)フリー自家細胞製人工血管を用いたバスキュラーアクセスの再建」の臨床研究の開始に向け、準備を進めてきたが、この度、本件に係る再生医療等提供計画を2019年11月7日に厚生労働大臣へ提出し、臨床研究を開始する運びとなった。
本臨床研究は、佐賀大学医学部胸部・ 心 臓血管外科 伊藤学 助教を責任医師として、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと、サイフューズと共同で、患者自身の細胞のみから構成される細胞製人工血管を作製し、バスキュラーアクセスの再建を目的とした臨床研究を実施。なお、今回開始する臨床研究は、バイオ3Dプリンタを用いた細胞製人工血管を移植する世界初の再生医療となり、バイオ3Dプリンタを使用した新しい治療法を適切かつ安全に患者に届けられるよう進められる。

J-TECのクリーンルーム内に設置した臨床用バイオ3Dプリンタ

現在、腎不全等により血液透析が必要となった場合、人工透析患者の96%以上がバスキュラーアクセスとして動静脈内シャントを使用していると言われている。この動静脈内シャントの作製には患者自身の自己血管を用いるか、または自己血管による作製が困難な場合には合成繊維や樹脂といった人工材料から作製される小口径の人工血管が使用されているが、従来の人工血管は感染しやすく閉塞しやすい等の課題を抱えているのが現状。そこで、これら小口径の人工血管の課題を克服するべく、より生体血管に近い人工血管の開発を目指し、佐賀大学と京都府立医科大学及びサイフューズは、これまでにAMEDの支援を受け、バイオ3Dプリンタ「Regenova®」を用いた細胞塊の積層技術により、細胞のみから構成される小口径の細胞製人工血管(スキャフォールドフリー細胞製人工血管)の開発に取り組んできた。これらの成果をもとに、今回、バスキュラーアクセスの再建を目的とし、細胞のみから構成される細胞製人工血管をヒトに移植する臨床研究を実施。
本細胞製人工血管は、人工材料を用いず患者自身の細胞のみから作製されているため、従来の人工材料から作製された人工血管に比べ抗感染性や抗血栓性において有用性が期待されること、また、バスキュラーアクセスの開存性向上やバスキュラーアクセスで繰り返すトラブルによる患者の苦痛が軽減されること等が期待されている。

臨床研究の流れ

■ 臨床研究の名称
「スキャフォールドフリー自家細胞製人工血管を用いたバスキュラーアクセスの再建」

■ 対象疾患
維持透析を要する末期腎不全

■ 臨床研究の概要

  1. 患者自身の鼠径部などから皮膚組織を約1cmx3cm程度採取。
  2. ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC:愛知県蒲郡市)内の細胞培養専用のクリーンルームに皮膚片を専用容器で輸送。
  3. 皮膚片を酵素処理にて細胞を分離し、数日間培養して線維芽細胞を増殖させ、必要な数の細胞が得られたら、細胞凝集現象を誘導する専用の培養皿で細胞凝集体(スフェロイド)を作製。
  4. J-TECのクリーンルーム内に設置した臨床用のバイオ3Dプリンタ(澁谷工業(株)とサイフューズの共同開発)を用いてチューブ状にプリント。
  5. 細胞製人工血管の強度を高めるよう線維芽細胞にコラーゲン産生を促す培養を行う。
  6. 一定の強度が確認されたら蒲郡から佐賀大学医学部附属病院へ出荷。
  7. 細胞製人工血管内の細胞を生かしたまま輸送。
  8. 移植に適しているか細胞製人工血管を担当医が判定。
  9. 患者自身の肘~前腕の動静脈へ移植。
  10. 移植直後から細胞製人工血管の状態を定期的に観察。

バイオ3Dプリンタ

多数の細胞などの原料と3次元デザインをセットすると、元のデザイン通りの立体構造体を出力する装置の総称。さまざまな手法が存在するが技術全般をバイオファブリケーションとも呼ぶ。世界で100以上の企業や研究者グループが取り組んでいる。当該研究グループは「剣山メソッド」と呼ばれる独自方式によって細胞だけで外科的操作に耐えられる強度を持った細胞構造体をプリントできる独自のバイオ3Dプリンタを開発している。2019年11月現在、細胞だけで外科的操作に耐えうる立体構造体を作製・出力できるバイオ3DDプリンタは当該研究グループが開発した装置のみである。


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