Formlabs経営陣インタビュー

Formlabs社経営陣から見たアジア市場と新製品展開について

米国マサチューセッツ州サマービルに本拠を構えるプロフェッショナル向け3Dプリンタメーカー Formlabs は、2019年9月13日、日本初となるユーザー参加型イベント「Formlabs USER SUMMIT JAPAN 2019」を開催した。3DP id.artsでは今回、同イベントならびにプレス発表に合わせ来日した同社の最高製品責任者 David Lakatos(デビッド・ラカトス)氏および最高マーケティング責任者 Jeff Boehm(ジェフ・ボヘーム)氏のお二方と、同社日本法人Formlabs株式会社マーケティング部 部長の新井原氏にインタビューを行い、新商品「Form 3」や日本を中心としたアジア市場について話しを聞いた。

Formlabs 最高製品責任者 David Lakatos氏

新製品「Form 3」「Form 3L」

今回、日本初となるユーザーサミット開催に合わせ、新製品「Form 3」と「Form 3L」の2機種が初披露されましたが、Formlabs社はどういったユーザーをターゲットにこの2機種を開発されたのでしょうか?

我々はこれまで、エンジニア、デザイナー、歯科医などのユーザーに「Form 2」を提供し、それぞれの業界で広く活用いただいてます。そういった既存ユーザーに対するアプローチはもちろんですが、各々の業界内で未だ3Dプリンタを活用されてないユーザーにも広めていきたいと考えており、常に製品のバージョンアップを重ねています。
そこで我々が特に注目しているのは、歯科業界です。新製品である「Form 3」は、「Form 2」よりも更に品質や利便性が向上しており、院内設置の小規模なデンタルラボにも導入しやすいシステムになっています。

新たに追加された大型機「Form 3L」は、次期モデルの開発計画当初からラインアップを予定されてましたか?

はい。実は、大型機の開発は我々がKikcstarterでスタートアップした2012年から構想していました。大型機に対する要望が高いのはもちろんですが、自動車業界、航空宇宙、他の工業製品など産業用途での活用を考えると、大型機は必須です。例えば、今回我々が最近コラボレーションした「New Balance」スニーカーに設置されるミッドソールのような部品は、機能性を担保するため一体で成型する必要がありますが、そのような部品を造形するにも造形領域の広い大型機は必要です。

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3Dプリント製ミッドソール搭載のスニーカー「990 Sports」

現在、Formlabs製品と顧客層が重なる競合他社製品が次々と市場投入されていますが、それら競合他社製品との差別化について、Formlabsはどの様に考えてらっしゃいますか?

確かにプロフェッショナル向け3Dプリンタと称したプリンタは数多くラインアップされていますが、大手メーカーが提供する産業用プリンタは非常に高額で、イニシャルコストだけでなくランニングコストが大きな負担になります。逆に、低価格なLCDプリンタは容易に導入できますが、精度や造形エリア、材料面を含め性能面で劣る部分が否めません。今回「Form 3」および「Form 3L」に搭載された次世代の3Dプリント技術「Low Force Stereolithography(LFS)」は、産業用プリンタを超える性能を有しながら低価格化を実現しており、競合他社を凌駕する優れたコストパフォーマンスを発揮していると思います。
しかし、技術進化は今後も拡大を続けていくものであり、単純な性能比較や技術面だけに着目した競争を続けていてもあまり意味がありません。我々は、ソフトウェアを含めたパッケージや、総合的なサービス力で勝負していくつもりです。

他社製品では、複数のマシンをソフトウェア上から制御し、3Dプリントファクトリーのような仕組みを構築しようと研究が進んでいますが、Formlabs社でも、Dashbordを拡張したような制御系ツールは開発されていますか?

はい、もちろんその様な要望に対応したシステムの開発は進んでいます。具体的な内容については現時点でお答えできませんが、複数のプリンタを使うユーザーは確実に増えており、その様なユーザーにとって利便性の高い仕組みはいずれ提供できるようになる思います。
またもうひとつ我々が提供するシステムとして「Form Cell」という製品があります。これは、ロボティックス技術による複数の3Dプリンタを制御する仕組みで、この技術をベースとした新たなシステムも将来的にご提供できるよう開発をすすめています。

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Formlabsの自動3Dプリントソリューション「Form Cell」

今後も拡張が期待される材料について

「Form 3」および「Form 3L」の2機種については、現行の「Form 2」用材料カートリッジがそのまま利用できる仕様になっていますが、今回の新型機リリースに合わせ、新たに追加される材料や今後リリースを予定している材料はありますか?

Formlabsには150名を超えるエンジニアおよびサイエンティストが在籍していますが、その内の約30名が材料開発を専門とするマテリアル・サイエンティストです。3Dプリンタ開発において材料開発は大変重要な部分であり、多くのマテリアルエンジニアを抱える事からも、我々が材料開発に多くの時間を費やしている事を理解いただけると思います。
そして我々は常にユーザーからの声を取り入れ、その要望に応えられるような材料の開発を行っています。先日発表した「New Balance」スニーカーにも使用された材料「Rebound Resin」もそのひとつで、この材料は実使用に耐える耐久性と高い靭性を誇っています。


Rebound Resinで成形されたミッドソール

「Rebound Resin」は市販化される予定はありますか?

「New Balance」スニーカーに使用した「Rebound Resin」はとても扱いが難しい材料のため、そのまま市販化することはありませんが、今回のコラボレーションにより多くのフィードバックを得ることが出来たため、この材料の特性を活かしたまま一般ユーザーでも使用できるような類似材料を今後リリースしたいと考えています。

以前リリースされたセラミック材料は、どの様な用途で使用されているのでしょうか?

以前リリースしたセラミック材料はあくまで、実験的な材料という位置づけでリリースした材料であり、研究を目的とした特定のユーザーがトライアルと言う形で使用されています。結果的に多くのユーザーが様々なアプリケーション開発に成功しており、その結果を踏まえ、使い易く改良されたパフォーマンスの高い類似材料を考えていますが、詳しい内容については残念ながら現時点ではお応えすることができません。

発売が遅れている「Fuse 1」の現状について

前回も質問させていただきましたが、多くのユーザーが期待しているFormlabs初のSLS方式3Dプリンタ「Fuse 1」の進捗については、その後いかがですか?

Fuse 1」について多くのユーザーが期待していることは我々も理解しています。ただ「Form 2」やそれ以前の弊社製品同様、「Fuse 1」をFormlabsブランドとしてリリースするからには、先ず我々が満足できる品質の製品に仕上がらなければ、ユーザーに提供することは出来ないと思っています。この場でリリース時期などを明確に伝えることはできませんが、何れリリースはする予定です。ユーザーを満足させることができる十分な品質になったと我々が判断できるまで、もう少し待っていてください。


同社初となるSLS(Selective Laser Sintering)方式の3Dプリンタ『Fuse 1』

3Dプリンタ市場について

前回(2018年5月)にインタビューさせていただいてから約1年半が経過しましたが、日本国内の3Dプリンタ市場は相変わらず飽和状態にあると言われています。Formlabs社から見て、日本を含めたアジア市場全体に何か変化は感じられていますか?

我々は決して日本の3Dプリンタ市場が飽和状態にあるとは思っていません。何故なら我々のマーケットとして、アジア太平洋地域は急速に伸びている市場だからです。
製造業全体に占める3Dプリンティングの割合はまだまだ低く、僅か1%程度です。今後新たなた技術、材料の開発が進むことで3Dプリンティングに対する用途は拡大し、製造業全体としてその割合は確実に増加します。それは結果としてFormlabsにとっても大きな市場が開かれていることに繋がります。

Formlabs社CPOインタビュー

Formlabs 最高マーケティング責任者 Jeff Boehm氏

アジア地域全体で伸び率の高い国はありますか?

特定の地域について具体的な数値をここで提示することはできませんが、全体的な印象としては、やはり日本と中国が大きく伸びています。特に中国については日本よりも導入開始時期が遅かったため、これからまだまだ伸びると考えています。

日本では、企業の内部留保が過去最高額に達する一方、設備投資には消極的な状況が続いているのですが、そのような流れについて感じられることはありますか?

我々は、日本企業がそこまで保守的であるような印象は受けていませんが、中国については様々な用途に3Dプリンティング技術を活用しようと積極的に設備投資を行っており、アプリケーション開発も盛んに行われているように感じています。米国、欧州、アジアを含めた全体に言えることですが、既存の3Dプリンティング技術は、これまでのアーリーアダプターからより主流向けの技術へ成熟してきており、これから更なる成長が期待される分野だと思います。そういった意味でも今回我々が開設する予定の「検証センター」は、今後の日本市場開拓にとって重要な拠点になると考えています。

検証センターについて

今回のプレス発表の中でも紹介されていた「検証センター」について、その具体的な活動内容についてFormlabs株式会社マーケティング部 部長の新井原氏に話しを聞いた。

検証センターは、どのような目的と内容で運用されるのでしょうか?

今回開設を予定している検証センターは、一般的なショールームとは少し異なり、Formlabs製品の技術検証はもちろん、他社製品との連携を検証するなど協業可能な企業を募り、3Dプリンティング技術を広めるための新たなアプリケーション(ソリューション)開発を目的とした施設にする予定です。もちろん、今回発表された大型機「Form 3L」も常設されます。

この様な施設は、日本以外の国にもあるのでしょうか?

空間的に余裕のあるボストンやベルリンの弊社オフィスでは、実機デモや検証のためお客様を招くことがありますが「検証センター」として、特定の目的を持った施設は今回日本にオープンする施設が初めてです。
まだ詳細についての公表はしていませんが、この検証センターは2019年10月頃に埼玉県内にオープンを予定しています。

日本のユーザーに向けたメッセージ

最後に、今回日本初のユーザーサミット開催となりましたが、遠方のためサミットに参加できなかった方も多くいます。そんな方々を含め、日本のFormlabsユーザーへ一言お願いします。

我々は常にユーザーに対しオープンな姿勢で取り組んでいます。ユーザーからの声は我々にとって非常に有益な情報となり、Formlabs製品を活用した事例の数々は、今後の製品開発やプロモーションなどにおいてとても重要です。
今年ボストンで大規模なユーザーサミットを開催し、近々ヨーロッパでもユーザーサミットの開催を予定していますが、ユーザーサミットは直接お客様の声を聞ける大切な機会です。また改めて日本でユーザーサミットを開催したいと思っているので、今回参加できなかった方も次回は是非ご参加ください。皆さんにお会い出来る日を楽しみにしています。


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