生きた脳細胞の3Dプリントに成功

最新のバイオプリンティング技術で生きた脳細胞の3Dプリントに成功

カナダの国立大学であるモントリオール大学およびコンコルディア大学、ブラジルのサンタ・カタリーナ連邦大学の研究チームは、新たに開発したバイオプリンティング技術を用いて、生きたマウスの脳細胞を3Dプリントすることに成功した。

研究チームは「Laser-Induced Side Transfer(以下 LIST)」と呼ばれる最新のバイオプリンティング技術を用いて、末梢神経系の重要な構成要素である感覚ニューロンをプリント。その大部分がプリント後2日間生存していた。
今回開発されたこの技術は、様々な病気のモデル化、薬物検査、インプラント製造など、バイオプリンティング分野を大きく前進させる可能性を示すものではあるとしているが、コンコルディア大学の博士課程に在籍するHamid Orimi氏は次のように述べている「バイオプリンティングの話をすると、移植用の人間の臓器が3Dプリントできるようになったと考えてしまう人が多いですが、 SF映画のように脳や臓器を置き換えるようになるのは、まだまだ先の話です。」

LISTバイオプリンティング技術は、 低エネルギーのナノ秒レーザーパルスを用いた細胞バイオプリンティングのために改良されたプロセスで、 細胞の生存率や機能にほとんど影響を与えることなく、幅広いバイオインクの粘度に対応し、高い印刷解像度と再現性を維持することができる。これにより、ドナー問題、インク粘度、細胞生存率など、他のバイオプリンティング技術にみられる様々な制限を克服。LISTは、3D薬剤スクリーニングモデルや人工組織など、マルチスケールのバイオプリンティングを必要とする用途にも応用できるという。


Image : Micromachines

今回の研究では、LISTを用いて成人の感覚神経細胞をバイオプリントできるかどうかを検証。研究チームは、マウスの末梢神経系から採取した後根神経節(DRG)の神経細胞を用いてバイオインクを作製。その後、神経細胞をバイオインクの溶液に懸濁させ、生体適合性のある基板の上に設置した四角いキャピラリーに入れた。LISTプロセスによって3Dバイオプリントされたサンプルは短時間培養された後に洗浄され、再び48時間培養。
3Dバイオプリントされた細胞は、プリントから2日後でも86%の細胞が生存しており、レーザーのエネルギーが低いほど生存率が向上し、高エネルギーのレーザーを使用した場合、細胞にダメージを与える可能性が高いことが分かった。

さらに、発達中の神経細胞が誘導信号に反応して新たな突起を作ることを意味する「神経突起伸長」のほか、神経ペプチドの放出、カルシウムイメージング、RNAシーケンスを測定。その結果、バイオプリンティングはDRGニューロンの生存率には影響を与えなかったが、神経突起伸長を抑制することを確認。また、3Dプリントされた神経細胞はペプチドの放出により、周囲の細胞とコミュニケーションをとる能力を維持していることも判明。最終的には、プリントされた成人の感覚ニューロンが高い生存率と機能的完全性を維持していることが示され、有望な結果が得られたという。

研究チームは、今後は神経回復薬などの創薬に役立つと考えられる細胞移植研究を継続するための承認を求めるとしている。


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