東京大学、修復能をもつ生きた皮膚で覆われたロボットを開発

東京大学の研究グループは修復能をもつ培養皮膚付きロボットの開発に成功

東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授、河井理雄大学院生(研究当時:修士学生)を中心とした研究グループは、人の皮膚細胞から作製される「培養皮膚」を利用して、細胞由来の生きた皮膚を持つ指型のロボットを開発したことを発表した。

従来のヒューマノイドなどのロボットは、シリコンゴムで被覆されることで人間らしく柔らかい皮膚を備えてきたが、ロボットが従来人間の行っていた仕事を代替していく中、 シリコンゴムには自己修復やセンシング、廃熱(発汗)など人間らしい能力を備えていないという課題が残っていた。そこで本研究では、人の皮膚細胞を体外で培養することで作製される「培養皮膚」をロボットの被覆素材として活用することで、修復能力など、人間らしい機能を備えた肌を持つ指型のバイオハイブリッドロボットを作製することに世界で初めて成功した。

本研究で開発された培養皮膚付きロボットの作製に関わる要素技術である培養皮膚は、将来のヒューマノイドロボットの被覆材料のみならず、義手・義足分野や皮膚を対象とした化粧品や医薬品の開発、移植素材としての再生医療分野等での活用が期待されている。

発表内容

引用元:https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0114_00019.html
” AI 技術の発展によりロボットが担う仕事の範囲は広がりづけています。従来は閉ざされた工場で決まった仕事を繰り返していたロボットは、今や私たちの生活圏内に人間のような 形で現れ、様々なサービスが行われています。先が読めない人間社会でロボットがヒトと協働する時、ロボットは人間やロボット自身を接触から守るために皮膚のような柔らかい外装を持つことが求められています。さらに、そのような柔らかい外装は細かな裂傷を負いやすいため、自己修復能力を持つことが期待されています。周囲環境との接触によって柔らかい外装が負う小さな傷は放置することで大きな裂傷に繋がりますが、ロボットが傷を負うたびに回収して修理を施すのは非常に大きなコストがかかるからです。本研究では人の皮膚から単離された細胞を培養し、増殖させる事で作製した「培養皮膚」を用いて立体物を被覆する手法を開発し、生きた皮膚で纏われた世界初のロボットを作製しました。 図1 に培養皮膚に被覆されたロボットの作成手法を記載しています。図1A に示すように 骨格となるロボットは3関節の指形状をしており、中心部を通るワイヤーをモーターが引くことで関節運動を行います。指型ロボットの周囲で真皮組織をゲル化させると真皮組織が激しく収縮し、指型ロボットをぴったりと被覆する培養皮膚が形成されます。また、その後に培養真皮組織表面全体に表皮細胞を播種し培養を進めることで表皮層が形成され、培養皮膚組織が作製されます(図1B)。 図2A が示すように指型ロボットは形成された培養皮膚を破壊することなく関節運動を行うことが可能であり、また培養皮膚表面には撥水性のある表皮の層が形成されていることが確認できます(図2B、C)。 また、指型ロボットを被覆する培養真皮組織は傷つけられてもコラーゲンシートを傷口に貼ることで修復することができます。メスを用いて作られた傷口にコラーゲンシートを貼ると7日間ほどの培養でコラーゲンシートに真皮細胞が移動し、傷口の接着強度が強まることが本研究で確認されました。修復された指型ロボットは再び関節運動を行うことが可能であり、傷口部分が一体化していることも確認できます。 本研究で開発された培養皮膚ロボットの作製技術は、修復性や人間らしさを活かした産業への活用の他、皮膚を対象とした化粧品や医薬品の開発、移植素材としての再生医療分野での活用も期待されます。”

図1. (A) 指型ロボットの設計 (B) ロボットを被覆する培養皮膚の形成手法。真皮細胞を含んだコラーゲン溶液を培養すると激しく収縮し培養真皮組織を形成する性質を利用し、指型ロボットをぴったりと被覆する培養皮膚組織を作製する。

図2.  (A) 培養皮膚に被覆された指型ロボットの関節運動。作成したロボットは皮膚を破壊することなく関節運動を行うことができる。(B) 表皮組織の確認。(C)表皮組織の特性である撥水性の確認。

本研究成果は、米国科学誌「MATTER」のオンライン版に掲載された。https://www.cell.com/matter/fulltext/S2590-2385(22)00239-9


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