3Dプリンティング排出物の健康リスク

安全研究専門機関CIRI、3Dプリンティング排出物の健康への影響を研究

大手の独立安全研究専門機関である UL Research Institutes の一部門で、人間の健康への影響や健康リスクを軽減するプロセスに関する科学的研究を行う The Chemical Insights Research Institute(以下 CIRI)は、FFF(FDM)方式3Dプリントに関連する健康リスクを指摘する研究を発表した。

CIRIの研究所で働く研究者たち

研究チームは、5年間にわたり500回以上の曝露試験を実施し、FFF(FDM)方式3Dプリンティングが、超微細粒子(UFP)と揮発性有機化合物(VOC)を排出することを発見。これらの排出物は有害であり、発癌性物質、刺激物、発達および生殖毒性物質として知られる化学物質を含む可能性があると指摘している。

「材料押出し3Dプリンティングから排出される粒子および揮発性有機化合物の曝露危険性:室内試験データの統合」と題されたこの論文にて研究者は、「3Dプリンティングは、超微細粒子と様々な有害化学物質の複雑な混合物を排出し、これに曝露することで推奨される曝露限界を超え、急性、慢性、発達上の健康影響を引き起こす可能性があり、排出物の潜在的な危険性を認識し、曝露を軽減するための適切な対策を取るべき」とコメントしている。

CIRIの評価装置の一部

オフィスや教育機関などの非工業環境で最も広く使用されている3Dプリンティング技術であるFFF(FDM)方式の普及に伴い、家庭環境での3Dプリンタの使用が増加し、頭痛、刺激、呼吸器症状を経験するユーザーが報告され、公衆衛生上の懸念が生じている。これらの健康リスクを完全に評価するため研究者たちは、6社(メーカー名未公開)の14台のFFF方式3Dプリンタを使って447回の3Dプリントによる粒子排出と、58回の3Dプリントの実行でVOC排出を測定した。
このテストでは、13社の材料メーカーからの45種類の異なる色と材料のフィラメントを使用して評価。これらの材料には、ABS、PLA、ナイロン、HIPS、PVA、PETG、ASA、TPUなどの広く利用可能なポリマーが含まれている。さらに、ABS、PLA、ナイロンポリマーと混合されたポリカーボネート(PC)、難燃剤(FR)、青銅粉末、切断炭素繊維、ガラス繊維などの複合材料も評価され、金属複合フィラメントについても分析された。

9つのフィラメントのうち少なくとも5つから懸念される化学物質が検出された

CIRIの研究の成果

研究者たちは、ABS、HIPS、ナイロン材料が最も高い粒子排出量を生じることを発見。3Dプリンティング中に排出される粒子は主に超微細であり、人間の肺、血液、脳に深く浸透する。したがって、これらの排出物は呼吸器および心血管疾患と関連している。また、金属複合材料はより大きな粒子を排出し、より高い質量排出を生じる傾向があった。さらに、研究されたフィラメントの80%から、ホルムアルデヒド、スチレン、アセトアルデヒドなどの発癌性物質が検出された。研究者たちは、3Dプリンティング中に排出されるVOCの広範なリストを特定し、芳香族、アルデヒド、アルコール、ケトン、エステル、シロキサンを含むとしている。

FFFプリント中の微粒子の放出

一部の材料から排出された有害化学物質の排出量は、NAAQS(National Ambient Air Quality Standards)が推奨する大気質基準を超えていることが判明。ベンゼン、スチレン、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、アセトアルデヒド、カプロラクタムが最も懸念されるVOCであった。
ABSおよびHIPS材料は、粒子排出量およびVOC曝露の観点から最も懸念される材料として強調され、ナイロンは高い粒子排出量とカプロラクタム曝露を示し、ASAは大量の有害VOCを排出することが判明した。一方、PLAはVOCおよび粒子排出量が一般的に低いことが示された(例外もあり)。

条件による変化

3Dプリンタおよびフィラメント条件を変更することで、排出レベルに大きな変動が生じた。興味深いことに、粒子排出量はVOC排出量よりも3Dプリンティング条件に対して敏感であることが判明した。特にABSにおいては、フィラメントの色が粒子排出量に重要な変数であることが分かった。黒色のフィラメントは排出量が低い材料である傾向にあり、他の全ての色は正の係数を持っていた。
押出温度を上げるとABSの粒子排出量は増加したが、一方でPLAの排出量は温度上昇により減少した。さらに、3Dプリンティング速度の増加は、ABSからの粒子排出量を著しく増加させたという。

最終的に研究者たちは、FFF方式3DプリンティングがUFPおよび有害化学物質の混合物を排出するため、健康上の懸念があると結論づけた。ASB、PLA、ナイロン材料から排出される粒子は、炎症反応、細胞死、酸化ストレスを誘発し、吸入後の悪影響を示している。そのため研究者たちは、3Dプリンティングに関連する潜在的な健康危険性をユーザーが認識し、これらのリスクを制限するために必要な予防措置を取るべきだと考えている。

3Dプリンティングの健康への影響

CIRIが3Dプリンティングの負の健康影響について研究を行ったのはこれが初めてではなく、昨年CIRIの毒性研究では、ABSまたはPLAフィラメントをプリントする際に発生する煙が「気道細胞の損傷と炎症に寄与する可能性がある」とする研究内容を発表している。この研究では、ABSを用いた3Dプリンティングの煙による高用量曝露が肺細胞の生存率を49.5%低下させることが分かった。さらに、PLAおよびABS排出物が酸化ストレスの減少、DNA損傷の増加、代謝物の高レベルを引き起こすことが分かっており、最終的にABSはPLAよりも毒性が高いと判定された。

3Dプリンティング技術の進歩は革新的な可能性を持つ一方で、CIRIの研究はその健康への潜在的リスクを浮き彫りにした。特に、ABSなどの一般的な材料からの有害な粒子と化学物質の排出は、長期的な健康への影響を示唆している。これらの発見を受け、3Dプリンティングの安全性を高めるための適切な予防策や環境改善が重要である。


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