3Dプリント技術でナトリウムイオン電池最高性能を達成

日米共同研究チーム、3Dプリント技術でナトリウムイオン電池最高性能を達成

カリフォルニア大学ロサンゼルス校、東北大学の材料科学高等研究所および学際科学フロンティア研究所、ジョンズホプキンス大学、東北大学の多元物質科学研究所等の日米共同研究チームは、ナトリウムイオン電池の負極に適したハードカーボンからなる連続周期構造の「カーボンマイクロラティス」を3Dプリンタで作製。格子中の空隙が高速イオン輸送を可能にし、固体中の低速な拡散に制限されていた電極面積当たり容量を4倍に引き上げ、世界最高レベルの性能を達成。
本研究成果は、2022年6月20日付で学術出版大手の米ワイリーが発行するナノ科学とナノテクノロジー専門誌Small誌に掲載された。


(左) カーボンマイクロラティス電極の概要 (右)カーボンマイクロラティス電極とペレット電極の厚膜化に伴う電極面積当たり容量の変化

研究の背景と経緯

化石燃料依存からの脱却を目標とする再生エネルギー利用に関する研究は、ここ数年で世界的に勢いを増している。太陽光・風力・地熱エネルギー等のエネルギーを回収する環境発電も活用されはじめてきたが、いずれも取り出したエネルギーの貯蔵デバイスが必要とされている。本研究では、次世代畜電池の有力候補の一つであるナトリウムイオン電池について、3Dプリント技術を用いて周期的連続多孔構造の炭素電極を作製し、その性能向上を図っている。
現在最も普及しているエネルギー貯蔵デバイスの一つリチウムイオン電池は、携帯電子機器をはじめ、電気自動車への搭載や建物での電力貯蔵などの需要が高まる一方で、リチウムの主原料である炭酸リチウムの価格はこの2年間で16倍と高騰しており、化石燃料脱却の新たな不安材料となっている。このため、リチウム以外を用いたマグネシウム・カルシウム・アルミニウム金属イオン電池が発案されている。これらに加えて、豊富な海洋資源であるナトリウムイオン電池は、エネルギー資源の輸入依存が大きい日本にとって魅力的な研究選択肢となる。
電池の容量は、電極にどれだけイオンを充填できるかで決まる。しかしながら電極材内部はイオン移動が遅いため、従来の薄膜・ペレット状の電極を厚くしても効果的な電極材は実現できず、容量と出力の両立にはセルをスタックするしかない。電極全体に金属イオンが高速で出入りできるよう、マイクロスケール(1~100 µm)で制御された連続した3次元イオン拡散パスを実現できれば、出力を損なうことなくセル当たりの容量を増大できるだけでなく、スタック構造と比べて生産コストの削減にもつながる。この連続的な3次元構造をコンピュータ上でデザインし導入する手法として、近年注目されているのが3Dプリンタ技術となる。

本研究の成果と今後の展望

本研究では、光造形3Dプリンタの中でも安価な液晶マスク型を採用し、連続的な3次元構造を有する光硬化性樹脂の前駆体を作製。これを真空下1000℃で熱処理すると、設計した構造を維持したまま60%収縮し、100~300 µmの構造単位からなるカーボンマイクロラティスを得ることができた。これらをナトリウムイオン電池負極として用いることで、構造単位が微細になる程、充放電特性が向上することを確認。また、従来の粉末ペレット電極と比較した結果、最も緻密な構造を有するマイクロラティスは単位面積当たり容量を4倍まで向上させることができた。
今回作製したカーボンマイクロラティスは、黒鉛のような結晶性を持たないハードカーボンと呼ばれる構造を持ち、多くの金属イオン電池候補の中でもナトリウムイオンの充放電との相性が優れている。この特性を用いて、充放電の各段階で電極を回収・洗浄し、ナトリウムイオンの侵入がハードカーボン内部の構造に与える影響をX線回折法により可視化することにも成功。性能面でリチウムイオン電池に匹敵するナトリウムイオン電池の開発が期待されている。
プレスリリース


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