金属3Dプリンティングの残留変形を低減

早稲田大学、形状と状態の同時最適設計により金属3Dプリンティングの残留変形を低減させる手法を開発

早稲田大学理工学術院基幹理工学部およびピッツバーグ大学による研究グループは、近年注目されているレーザー粉末床溶融式の金属3Dプリンティングにおいて、ラティスの粗密分布とレーザー走査方向を最適に決定することで残留変形を低減させる手法を開発。本研究の成果により、金属3Dプリンティングにおいて課題となっていた、成形品が大きく反るという問題点の大幅な解消が期待できる。
プレスリリース

最も普及している金属積層造形法であるレーザー式粉末床溶融法では、薄く敷き詰めた金属粉をレーザーで溶融凝固させるというプロセスを繰り返し、三次元構造を形成するが、溶融凝固した箇所には大きな収縮残留応力が生じ、それが反りの原因となる。また、この収縮残留応力はレーザーの走査方向に大きく、その直角方向には小さくなるという局所的な異方性を示す。
このような残留変形の対策としては、造形時に予備加熱をして溶融時と冷却時の温度差を小さくするというハードウェア的アプローチの他に、レーザーの走査方向を工夫することにより上図に示す残留応力の局所的な異方性を活用するアプローチ、造形対象の形状を工夫することで全体の変形をコントロールするアプローチの三つがある。

金属3Dプリンタで作成した試験片の残留変形とその発生メカニズム

本研究グループでは、造形対象の形状を工夫することで熱変形を低減する手法、また、レーザーパスを工夫することで熱変形を低減する手法についてそれぞれ研究。今回の研究では、造形対象の内部にラティス構造と呼ばれる中空構造を最適に形成しつつ、最適なレーザーパスで造形することにより、金属3Dプリンタ成形品の残留変形を低減することに成功。今回の研究において初めて造形品の形状と状態を同時に最適化することを可能とした。

図はコネクティングロッドを題材に、5層の最適なラティス構造を内部に形成し、最適なレーザー走査方向で造形を行った例。
反り変形は造形物上部の残留応力が下部より大きくなることで起こるが、最上部のラティスが低密度になることで応力を低減しつつ、高密度なラティスがアーチ型に配置されることで反り変形に対する剛性が高められている。また、レーザー走査方向は下層で部品の長手方向を向き、上のレイヤーでは短手方向を向く傾向がある。これはすなわち、部品の長手方向の残留応力が下層では強くなり、上層では弱くなることを意味し、明らかに反り変形を抑制する。均一なラティスと均一なレーザー走査方向で造形した試験片と比較し、反り量は20.7%低減された。先行研究で内部ラティス構造のみを最適化した類似の例題では6.0%の低減でしたので、レーザー走査方向最適化により抑制効果が大幅に向上したことがわかる。

残留変形低減のための(a)最適内部ラティス構造と(b)造形した試験片、(c)最適レーザー走査方向

新しく開発した手法

金属3Dプリンティングの残留変形を近似的に求める手法として、固有ひずみ法が提案されている。本来、固有ひずみ法は日本の造船分野で開発された溶接変形を近似的に導出する手法だが、近年金属3Dプリンティング用に盛んに改造が進められている。本研究では、最適化に用いることを前提に、漸化式で表現した新たなシンプルな固有ひずみ法を開発。更に、良く知られているトポロジー最適化のアルゴリズムを活用し、残留変形の低減を目的としてラティスの粗密分布とレーザー走査方向を最適に決定する手法を開発した。
本研究で開発した手法は、固有ひずみ法という残留変形の近似的計算法に基づいており、最適化のためにシンプル化している。すなわち、最適化のような相対的な評価には使用可能だが、絶対的な精度には難がある。今後近似手法の精度向上が図れれば、残留変形のより厳密な評価と最適化が可能になる。

論文情報

雑誌名:Additive Manufacturing(オランダ・エルゼビア社)
論文名:Simultaneous optimization of hatching orientations and lattice density distribution for residual warpage reduction in laser powder bed fusion considering layerwise residual stress stacking
執筆者名(所属機関名):竹澤 晃弘 (早稲田大学理工学術院 教授)、Guo Honghu (早稲田大学基幹理工学研究科 博士後期課程)、小林 凌太朗(早稲田大学基幹理工学部 卒業生)、Qian Chen(University of Pittsburgh,博士後期課程 卒業生)、Albert C. To(University of Pittsburgh教授)
掲載日:2022年10月13日(木)<現地時間>
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214860422005838?via%3Dihub
DOI:https://doi.org/10.1016/j.addma.2022.103194


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