3Dプリンターで食品対応部品を作る条件

「食品対応フィラメントなら安全」は誤解、3Dプリンターで食品接触部品を作るために知っておきたい基礎知識

食品製造や調理分野でも活用が広がる3Dプリンターだが、「食品対応フィラメントを使えば安全」とは限らない。食品接触材料や3Dプリント技術に詳しい専門家の知見をもとに、材料選びから造形、後処理、洗浄まで、安全な食品接触部品を作るために知っておきたい重要なポイントを整理した。

「食品対応材料=造形物も安全」とは限らない

3Dプリンターの普及に伴い、食品用トレーや菓子型、食品工場の治具、製造ラインのガイドや交換部品などを3Dプリント技術で製作する機会が増えている。しかし、食品接触材料の専門家が特に注意を促しているのが、「PLAやPETGなら食品に使える」「食品対応フィラメントを使えば完成品も安全」といった認識である。
重要なのは、材料そのものの食品接触適合性と、3Dプリンターで製作した最終造形物の安全性を分けて考えることだ。

例えばPETGは飲料容器などにも広く利用されている樹脂だが、3Dプリンター用フィラメントには着色剤や添加剤などが含まれる場合があるため、ベースとなる樹脂が食品用途に利用されているという理由だけで、市販されているすべてのPETGフィラメントや、その造形物まで食品接触用途に適しているとは判断できない。
さらに専門家が重要視するのが「マイグレーション(移行)」である。これは材料に含まれる成分が、接触している食品側へ移る現象を指す。食品と接触する時間や温度だけでなく、油分や酸、アルコールなど食品側の性質によっても条件は変化する。
つまり、食品用途では単に「食品対応」という表示だけで判断するのではなく、「何を使って作ったか」「どのように作ったか」「何に、どのくらいの時間、どの温度で接触させるのか」まで含めて安全性を考える必要がある

3Dプリント特有の「積層痕」も衛生面のポイント

FDM方式の3Dプリンターでは、溶かした材料を一層ずつ積み重ねて造形するため、完成品の表面には細かな積層痕が残るが、この凹凸や隙間に食品残留物が入り込むと洗浄しにくくなり、衛生管理が難しくなる可能性がある。そのため食品接触部品では、材料だけでなく、汚れがたまりにくい形状に設計することや、適切な表面処理、洗浄方法を検討することも重要だ。
また、造形に使用するノズルやプリンター内部の状態にも注意したい。食品接触用途に適したフィラメントを使用していても、異なる材料を造形した際の残留物などが混入すれば、最終造形物の安全性に影響する可能性がある。

食品用途では、フィラメントだけを見るのではなく、「材料・3Dプリンター・造形工程・後処理・使用方法」という一連のプロセスで安全性を考える必要がある。

食品工場では治具や交換部品への活用にも期待

食品産業における3Dプリンターの可能性は、食器や食品容器を作ることだけではない。
むしろ実際の製造現場では、食品加工機械に使用するガイド、治具、ロボットハンド、位置決め部品、交換部品など、少量しか必要としない専用部品との相性が良い。
こうした部品を従来工法で製造する場合、金型や切削加工が必要となり、1個だけでも大きなコストと時間が掛かることがあるが、3Dプリント技術を利用すれば、必要な部品をデータから直接製造できるため、試作品だけでなく、設備の保守や少量生産部品にも活用できる。
特に、生産終了した設備の交換部品や、製造ラインごとに異なる専用治具を短期間で製作できることは、3Dプリンターならではの大きなメリットである。

3DFS id.artsで選べる食品接触用途向けフィラメント

食品関連の研究開発や製造現場でFDM方式の3Dプリンターを利用する場合には、用途や必要な性能に合わせて適切なフィラメントを選択する必要がある。
3Dプリンター用材料専門ショップ 3DFS id.arts では、食品接触用途を想定したフィラメントを多数ラインアップしている。

NonOilen

Fillamentumとスロバキア工科大学の研究チームによって開発された、PLAとPHBをベースとする100%生分解性のフィラメントである「NonOilen」は、食品接触に関するEU規則に適合し、一般的なPLAより高い耐熱性を備えることも特徴で、食品関連の治具やキッチン用品、研究・教育用途など、食品対応と環境性能の両方を重視したい用途に適している。

PA Blue Metal Detectable

食品加工業界での利用を想定して開発された特殊なポリアミドフィラメントである「PA Blue Metal Detectable」は、食品工場で識別しやすいブルーの材料に金属検出可能な成分を配合しており、造形部品が破損して製造ラインへ混入した場合に、金属探知機やX線検査装置による発見を容易にする。
食品工場のガイド、治具、交換部品など、異物混入対策が求められる用途で特に注目したい材料だ。

EasyFil ePETG

食品接触用途にも対応する高品質PETGフィラメントである「EasyFil ePETG」は、高い透明性に加え、優れた耐衝撃性や耐薬品性、層間接着性を備え、反りが少なく安定した造形ができることも特徴。高速3Dプリンターでの造形にも対応しており、食品関連の治具や試作品、容器類など、造形性と耐久性の両方を重視したい用途に適している。

EasyFil ePLA

造形のしやすさと食品接触用途への対応を両立したPLA系フィラメントである「EasyFil ePLA」は、反りや収縮が少なく、幅広い3Dプリンターで扱いやすいため、食品関連設備の試作品や治具、研究開発用モデルなど、手軽に造形したい用途の選択肢となる。

PP 2320

耐薬品性、耐水性、耐衝撃性に優れたポリプロピレンフィラメントである「PP 2320」は、酸やアルカリ、オイル、水などへの耐性を持ち、水分をほとんど吸収しないPPならではの特徴を備え、食品関連設備の治具や容器、液体を扱う部品など、耐久性が必要な用途に適した材料である。

食品接触用途を想定した3Dプリンター用フィラメントは、耐熱性、耐薬品性、強度、柔軟性などによって最適な材料は異なるため、実際の使用環境を確認したうえで選定することが重要だ。

食品分野だからこそ「材料+製造工程」で安全性を考える

食品接触規制に適合したフィラメントを使用しても、3Dプリンターで製作した完成品が、そのままあらゆる食品用途に使用できるとは限らない。
ノズルの材質や造形条件、積層面、後処理、洗浄方法に加え、食品の種類や温度、接触時間などによって安全性は変化するため、材料だけでなく製造から使用までを含めて判断することが重要だ。
また、日本国内で食品に直接触れる器具や容器包装として使用する場合は、食品衛生法への配慮も欠かせない。合成樹脂にはポジティブリスト制度が導入されているため、海外の食品接触規制に適合した材料であっても、日本国内での適合性や使用条件を確認する必要がある。
こうした安全性を正しく理解すれば、食品工場の専用治具や交換部品、菓子型、研究開発用部品など、3Dプリント技術の活用範囲はさらに広がるだろう。


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