3Dコンクリートプリンティングと再生可能エネルギーの融合

RCAMが日本初出展:3Dプリンティング技術が変革する再生可能エネルギーの未来

3Dプリンティング技術を駆使した洋上風力発電設備など、海洋再生可能エネルギーに特化した3Dプリントコンクリートソリューションを提案する米国のスタートアップ RCAM Technologies(以下 RCAM)は、グローバル展開の一環として、2024年4月10日から12日まで東京ビッグサイトで開催された国際海事展示会「Sea Japan 2024」に初出展。
今回の出展に際し、RCAMの3DコンクリートプリンティングエンジニアであるMason Bell氏を取材。同社の取組みや出展の展開などについて話しを伺った。

取材に応じてくれたRCAM社のMason Bell氏

尚、今回の取材に当たっては、AM技術の情報ポータルサイト「ShareLab」様にご協力いただき、共同インタビューという形式で取材を実施した。
https://sharelab.jp/top/

脱炭素政策に伴い注目度が増すグリーンエネルギー市場

米国のバイデン大統領は、2050年までのカーボンニュートラルの実現を公約の1つに掲げており、米国内ではクリーンエネルギー関連への投資が盛んに行われ、関連産業が飛躍的な成長を遂げている。
さらに、米国エネルギー省(DOE)は、2035年には米国内の電力の80%以上が再生可能エネルギー源から供給されると予測しており、このような政策的背景の中、RCAMはその革新的な技術でグリーンエネルギー市場において急速にその名を広めている。

持続可能な再生可能エネルギー開発を目指すRCAM

米国エネルギー省に属する研究機関である国立再生可能エネルギー研究所(NREL)で、エンジニアとして風力発電を研究をしてきたJason Cotrell氏(現CEO)により、2017年に設立されたRCAMは、米国エネルギー省 (DOE) 、カリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)など、複数の政府機関から総額1000万ドル(約15億4,600万円)の資金提供を受けており、RCAMが取り組む再生可能エネルギー技術は、持続可能な未来に向けた重要なステップと見なされていることが伺える。

「3Dコンクリートプリンティングを使用する最大のメリットは、そのスケーラビリティと柔軟性にあります」と語ったBell氏によれば、RCAMの技術は、再生可能エネルギーを生み出すだけではなく、そのインフラを建設する過程でも環境への負担を大幅に軽減するという。

RCAMのフルスケール・ファブリケーション設備

より大きなエネルギーを生むため大型化される風力発電用の設備は、自動車や鉄道による運搬が困難であり、海洋に設置される洋上風力発電設備においては、大型の運搬船を用いた海上輸送も必要となる。

大規模な3Dプリントシステムを利用し、大型の洋上風力発電設備を支えるアンカー(特許取得済み)を開発・製造するRCAMのソリューションは、港内にコンクリートプリンティング工場を設け、現地調達可能な材料を使用してアンカーを製造するため、長距離からの資材輸送に伴う炭素排出を削減するだけでなく、その組み立てや設置が簡易であり、プロジェクト全体の時間とコストを大幅に削減することができるという。

港内に設置される3DCP施設のイメージ

再生可能エネルギーの具体的なソリューションの一環として、3Dプリント技術をベースとした自動化されたコンクリート製造を提供するRCAMの技術は、現地調達可能な国産材料を使用して港で製造でき、従来の工法と比べ、再生可能エネルギー設備の製造コストを大幅に削減する。

MPHによる海底エネルギー貯蔵

そして現在、RCAMは洋上風力発電の成功を受け、さらなる再生可能エネルギー源として海洋揚水発電設備の開発にも注力している。
MPHは、深海での長期間エネルギー貯蔵システムで、水中深くの高圧を利用し、加圧された海水の形でエネルギーを貯蔵・放出する。エネルギー貯蔵は、再生可能エネルギー源が活発に発電していないときでも安定したエネルギー供給を安定させる必要がある。このシステムは、陸上の揚水発電を海洋に応用し、海上でのエネルギー供給の変動を抑える効果が期待される。

3Dコンクリートプリント技術を使用したオンサイト製造により、地元の労働力と材料を活用できるだけでなく、既存の海洋開発と統合することで、インフラを共有し、設備投資コストを削減することができる。

クリーンエネルギー設備の開発における3Dプリント技術の利点

3Dプリント技術は、クリーンエネルギー設備の開発において多くの利点を提供する。この技術により、大規模な風力タービンや海洋エネルギー発電設備の構成部品を現場で直接製造することが可能となり、従来必要だった複雑な物流と高額な輸送コストを削減。さらに、3Dプリントによる製造は、材料の無駄を削減し、建設時の二酸化炭素排出も最小限に抑えることができる。

Bell氏によれば、3Dプリント製の洋上風力発電用アンカーは、従来の製法に比べ製造コストの削減が可能で、内部に安価な素材を充填材として使用することができる重力アンカーでは約60%、船から投下された勢いを利用して海底深くに埋め込まれる魚雷アンカーでは最大80%の製造コストを削減できるという。

3Dコンクリートプリンターを利用したアンカー製造のイメージ

これらの技術的進歩は、クリーンエネルギー設備の経済的な実現性を高め、再生可能エネルギーの普及を加速させることが期待されており、RCAMはこのような3Dプリント設備を世界中の港に設けることを目標に研究開発を進めている。

3Dプリント技術による環境配慮型デザインの可能性

3Dプリント技術は目的に応じてカスタマイズが可能なため、特定の環境要因に適応した設計ができる。Bell氏はこれについて「私たちは、この技術を通じて環境と調和する方法を常に追求しています。例えば、タービンの基礎構造を設計する際には、海洋生態系に配慮した形状や素材を選びます。これにより、生物多様性の維持に貢献しながら、エネルギー生産の効率を高めることが可能です」と述べている。

3Dプリント構造物の模型とコンクリートプリントサンプル

このように、RCAMの3Dプリンティング技術は、単に再生可能エネルギー設備を建設するだけでなく、そのプロセス全体を持続可能なものに変革している。このような技術の進歩は、環境への配慮だけでなく、設計の自由度を高め、より効率的でコスト効果的な解決策を提供することで、クリーンエネルギー産業に革命をもたらす可能性を秘めている。

今後の展望と課題

RCAMの今後の展望は明るいものがあるが、同時に多くの課題も存在する。
技術のさらなる発展と商用化の進展を図る中で、規制や市場の受け入れ、そして初期投資の確保が主要な課題として挙げらる。しかし、政府からの強力な支援と業界内での協力により、これらの課題を乗り越えることが期待されている。

また、今後日本国内での展開を本格化する際、日本の厳しい法律をクリアし、関係各省庁との調整や複雑な手続きを円滑に進めるには、日本の大手ゼネコンとの協業なども考えられる。この点についてBell氏は「もちろん、日本企業との協力関係は重要だと考えています。我々の提供するソリューションに興味を持ち、具体化したいという企業が現れれば、積極的に協力するつもりです」と述べており、日本企業との協業なども視野にグローバルな展開を画策していることが伺える。

最後にBell氏は「我々は、技術革新を進めることで、再生可能エネルギーの更なる普及を実現し、持続可能な未来への大きな一歩を踏み出すことができると信じています。3Dプリンティング技術を利用したクリーンエネルギー設備の展開は、この目標に向けた重要な動きです」と語った。

2024年4月に実施された日米首脳会談では、有事に伴い深刻化するエネルギー問題に対する協力が強調されるなど、世界が化石燃料依存から脱却を目指す中、日米両国は再生可能エネルギーの創出と利用拡大に向けた関係強化の重要性に共鳴している。このような国際的な背景のもと、RCAMのような革新的な企業が、グローバルなエネルギー市場においても重要な役割を果たしており、再生可能エネルギーの利用拡大とその経済的な実現性を示すための一翼を担うことが期待される。

問合せについて

RCAM社の取組みやビジネスモデルについて、より具体的な質問や相談があれば、弊社までお問合せください。
問合せフォーム https://idarts.co.jp/3dp/contact/


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