3Dバイオニック表面での液体方向ステアリングの世界初の発見
香港城市大学の王鉆開教授(City University of Hong Kong, Zuankai Wang)とその共同研究者は、BMF の精密3Dプリントシステム「microArch® S140」を使用して、ナンヨウスギの葉に触発された3Dキャピラリーラチェット表面(ALIS)を製作し、表面張力の異なる液体が表面構造での移動方向を操作できることを初めて発見。2世紀以上続いている課題を解決した。この画期的な発見は「3D capillary ratchet-induced liquid directional steering」というタイトルで、科学雑誌Science誌に掲載された。
この成果発表は、大連理工大学のShile Feng准教授と香港城市大学のPingan Zhu助教授が共同筆頭著者で、香港城市大学のWang Drilling Kai教授が対応著者となっている。
方向性のある流体輸送は、多くの実用的な製品やエンジニアリングに幅広く応用されており、特にマイクロフルイディクス、水の採取、化学反応、強化された熱伝達などの分野で利用されている。 これまで、液体の自発的な移動方向は、液体自体の固有の性質よりも、主に表面形状、濡れ性、表面電荷密度など、表面の構造的特性や化学組成に依存すると一般的に考えられており、液体がその表面構造を変えることなく、また外部からエネルギーを入力することなく、その固有の特性に基づいて自らの運動方向を選択することができるかどうかは、学者にとって長年の科学的問題とされていた。
Wang教授率いる研究チームは、異なる性質を持つ液体が、ユニークなバイオニック構造を設計することで、その表面上で自発的に異なる運動特性を示すことを初めて発見。研究チームは、ナンヨウスギの葉の「横方向および縦方向のリエントラント曲率」を応用して、周期的に配置された3Dラチェットを作成した。これは、エタノールと水のような性質の異なる液体が、高速かつ整然と反対方向に自発的に移動するためのユニークな表面構造である。
以下は、その研究内容を一部抜粋したもの
Fig.1 ナンヨウスギの葉と超高精度3Dプリンター「BMF microArch® S140」で製作したバイオニックラチェットの構造。
図Aは、横方向と縦方向の二重曲率を持つナンヨウスギの葉の表面の構造的特徴を示している。図Bは、ナンヨウスギの葉にヒントを得た3D毛細血管ラチェットで、ラチェット1枚の厚さは80μmである。
要点:BMF microArch® S140超高精度3Dプリンターを用いて、ナンヨウスギの葉の構造的特徴を利用して、横方向と縦方向の両方に二重曲率を持つ3D毛細血管ラチェット構造を平行に配置して設計・製作。ブレードピッチp=750μm、コラムピッチw=1000μm、傾斜角度=15〜90°、曲率半径R1とR2は縦方向と横方向でそれぞれ〜400μmと〜650μm。
3Dプリント技術の素材には、アクリル系の感光性樹脂が使われている。
Fig.2 ナンヨウスギの葉の流体輸送特性とバイオニックなキャピラリーラチェットの構造。
図Aは、ナンヨウスギの葉の上でのエタノール(赤)と水(青)の動きを示したものである。 エタノール(赤)はラチェットの先端の方向に、水はその反対方向に動くことを示している。
図Bは、バイオニック3Dキャピラリラチェット構造上での、異なる表面張力を持つ液体の挙動を示している。表面張力の低い液体(赤、アルコール度数40%)は左に、表面張力の高い液体(緑、アルコール度数10%)は右に移動していることを示している。
図Cは、一定の幅に沿ってバイオニックキャピラリラチェット構造上を液体(接触角θ=32°)が自発的に、規則的に、かつ方向性を持って流れる様子を示している。
要点:ナンヨウスギの葉の表面にある棘の先端方向にエタノールが移動し、その逆方向に水が移動することを発見。 このように、流体の特性を変化させることで輸送方向を制御する現象は、これまで報告されていなかった。 これにヒントを得た研究者たちは、バイオニックな3Dキャピラリーラチェット構造上で、異なる表面張力を持つ流体の移動特性を探った。 研究結果によれば、表面張力の低い流体はバイオニック構造のラチェットの先端方向に、表面張力の高い流体はその逆方向に移動することを示している。このような流体の輸送特性は、ナンヨウスギの葉の表面での動きと同じで、しかも、長距離や円形の表面でも、良好な一方向性を保たれることがわかった。
この研究に関する詳しい内容は、下記リンクより確認可能
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abg7552
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