MIT、DICの技術を利用した目に見えないタグシステムで3Dプリントオブジェクトの追跡を強化
日本橋に本社を置く化学メーカー DIC の近赤外蛍光色素やそれを用いた樹脂材料が、米国マサチューセッツ工科大学(以下 MIT)の目に見えないタグを物に埋め込み追跡できる技術「BrightMarker(以下 ブライトマーカー)」に採用。MITは、米国で今秋開催されるユーザインターフェース分野のトップカンファレンス「UIST2023」にて同技術の研究結果を発表予定。
DICの蛍光色素を用いた蛍光タグを読み取る様子 Photo : MIT CSAIL
QRコードは日常生活のいたるところに存在するが、一見無害に見えるピクセルセットは、改ざんされたり、望まない相手に情報を渡してしまうだけでなく、利用者を危険なサイトに誘導したりウイルスに侵される危険性もある。
このような課題に対応するためMITのコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)の研究者たちは、物理的な物体に埋め込まれた目に見えない蛍光タグで、モーショントラッキング、バーチャルリアリティ、物体検出を強化するブライトマーカー技術を開発。
蛍光タグが埋め込まれたブレスレットを着用し手の動きをデジタル化して再現
DICの近赤外蛍光色素は、バイオイメージング(細胞活動などを画像解析する技術)などの用途で利用されているが、耐熱性や相溶性の課題から蛍光を発する樹脂材料としての実用例はほとんどない。一方、同社の近赤外蛍光色素は、高い耐熱性を持ち樹脂に混練できるといった他社製品にはない特性を持つことから、手術や検査などで使用される樹脂製の医療用具などに採用されている。
同社の近赤外蛍光色素は、3Dプリント用の樹脂フィラメントに混練・成型できるため、MITが開発した新技術における蛍光タグとして、QRコードなどの情報パターンをプリントする上で重要な役割を果たしている。近赤外領域で発光可能な蛍光タグは人の目に見えないため、意匠性などを損なうことが無く、また、秘匿性の高い情報を埋め込むことが可能になり、赤外線カメラでのみ情報を読み取ることができる。
さらに、MITの発表した事例では、同技術がモーショントラッキング(動きを追跡する機能)や仮想現実(VR)技術の向上などにも活用できるとしている。例えば、蛍光タグが埋め込まれたブレスレットを手に着用すると、着用者の動きがVR環境でデジタル化して再現できることなどを示している。DICの蛍光色素が採用された蛍光タグは、可視光の影響を受けにくいため、従来のモーショントラッキングで使用される技術と比較して、より高感度で高精度な情報の読取りが期待でき、これらの技術向上に貢献する重要な役割を担っている。
MITのCSAIL客員研究員で、マドリッドのカルロス3世大学で博士課程に在籍するラウール・ガルシア=マルティン氏は「ARとVRのパラダイムが支配する未来において、物体の認識、追跡、追跡可能性は、物理的世界とデジタル世界をつなぐために極めて重要です。ブライトマーカーのシームレスなトラッキングは、ハイテクを駆使した未来へのエキサイティングな旅の始まりです」と述べている。
研究者らは以前、物理的な物体に3Dプリントしたタグにデータを埋め込む技術「InfraredTags」を開発し、2022年の「ACM CHI Conference on Human Factors in Computing SystemsでPeople’s Choice Best Demo Award」にノミネートされた。このプロジェクトでは、黒い物体にしか使えなかったが、ブライトマーカーは、蛍光材料によりタグが特定の波長で発光するように構成されているため、撮影環境内の他の波長によるノイズのために低コントラストでしか検出できなかった赤外線タグよりも、タグの分離と追跡がはるかに容易になっている。
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