3Dプリント自殺ポッド「Sarco」がスイスで使用される

3Dプリント技術を用いた自殺補助装置「Sarco」の初使用により法的・倫理的論争が激化

3Dプリント技術を用いて開発された自殺補助カプセル「Sarco(サルコ)」が、スイス国内で初めて使用れ、法的・倫理的論争が激化している。
「Sarco」を使用したのは、免疫疾患を抱える64歳のアメリカ人女性で、スイス・シュフハウゼン近郊の森の中に設けられた施設内で、装置を使用して自ら命を絶ち、ポッドが自殺に使用された初めての事例となった。
「Sarco」関連記事:https://idarts.co.jp/3dp/tag/sarco/

事前にSarcoを確認する米国女性 Photo : The Last Resort

自殺幇助専用に開発された3Dプリント製カプセル「Sarco」は、安楽死の専門家として多くの患者の自殺幇助を経験してきたオーストラリアの医師 Dr Philip Nitschke(フィリップ・ニチキ博士)によって設立された、自発的安楽死の合法化と自殺支援を擁護する国際的な非営利団体 Exit International によって開発された。
このカプセルは完全に自立型として機能しており、内部に入った人間(自殺対象者)自らがボタンを押すと内部に窒素が放出され、わずか30秒で酸素濃度が21%から1%にまで低下。これにより、使用者は瞬時に意識を失い、5~10分程度で死に至る。
酸素欠乏症(低酸素症)と二酸化炭素欠乏症によって死に至るこのプロセスは、パニックや苦痛を伴わずに静かに最期を迎えることができるとされている。

メディア向けイベントで展示されたSarco

元々、芸術やデザインの展示用プロトタイプとして設計されたSarcoだが、2021年にはスイスで法的審査を通過し、自殺補助装置としての使用が認められていた。
関連記事:自殺用3Dプリントカプセル「Sarco」がスイスで合法化

スイスでは自殺幇助が厳しく規制されており、自己利益のために行ってはならないとされているが、2020年には約1,300人が、スイスの2大自殺幇助組織である「Exit(Exit Internationalとは異なる団体)」や「Dignitas」のサービスを利用して自殺している。
これらのサービスを利用する際、患者は完全に意識があり、認可された専門家の補助を受けることが求められているが、Sarcoは完全な自立型であり、外部の補助なしに使用者自身が手続きを完結できるため、従来の規制が適用されない形となっている。

国際美術展ヴェネチア・ビエンナーレで披露された「Sarco」

上述の通り、スイスではSarcoの使用は合法的に許可されたが、スイス当局は今回の使用により、同国の自殺幇助団体「The Last Resort」の代表者フローリアン・ウィレット氏の他、アメリカ人女性の自殺に関与した数名を拘束したと伝えられている。
今回自殺した女性は、自殺幇助が許可されている認可クリニック以外の隔離された森の中で自らの命を絶つことを選んだため、「The Last Resort」やその他の組織が彼女の死を容易にしたとして、扇動および自殺幇助の容疑がかけられた。
今回の逮捕についてスイス当局は「窒素の使用など、化学製品に関する現地の規制に抵触する技術的な違反が逮捕の理由である」と説明している。

Sarcoは、従来スイスの自殺幇助組織「Exit」や「Dignitas」が使用する経口薬ソディウム・ペントバルビタールとは異なる、新しい選択肢を提供している。従来の方法では、患者が薬を服用して数分で眠りに落ちその後死亡するが、3Dプリント技術を用いて開発されたカプセル型のSarcoは、使用者が選んだ場所に容易に移動が可能なため、自ら選択した場所で、薬を使わずに平和で自律的な死を迎えることができる。

ニチキ博士は「Sarcoは、高齢者や末期疾患や慢性的な痛みに苦しむ人のために設計されたものであり、若年者や健康な人向けではない」と強調。Exit Internationalの公式ウェブサイトにも、「Sarcoは、高齢者や、長生きして充実した人生を送った人々、そして重病に苦しむ人々のためのものです。決して、未来ある若者のためのものではありません」と記されている。


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