心臓手術に使用可能な3Dプリント血管

3Dプリント血管で心臓バイパス手術の成功率を向上させる

英国の国立大学エジンバラ大学の研究チームは、3Dプリント技術を用いて、人体に適用可能な柔軟性を有する3Dプリント血管の作製に成功。この3Dプリント血管により、心血管疾患治療に必要な手術の成果を改善することを目指している。

3Dプリントされた血管 photo : エジンバラ大学

世界最大の死因は、心筋梗塞や狭心症などの総称である虚血性心疾患であり、世界中の死因のほぼ3分の1を占めている。これは特に米国で顕著であり、米国疾病対策センター(CDC)によると、米国では33秒に1人の割合で心血管疾患で死亡している。また、英国では死亡原因の4分の1近くが心臓および循環器疾患に関連している。治療に必要な冠動脈バイパス手術は、心臓の動脈が詰まったり、一部が詰まったりしている部分を避けて血液が流れるように新しい経路を作り、冠動脈疾患を治療する。冠動脈バイパス手術は非常に一般的な手術で、米国では年間約40万件、英国では2万件実施されている。手術の成功率は98%前後と良好な傾向にあるが、合併症のリスクは20%と比較的高い。

この課題に対処するためエジンバラ大学の研究チームは、現行の手術で使用されている人間の静脈や合成静脈に代わるものとして、3Dプリント技術を使用した丈夫で柔軟なチューブを作製した。これを実現するため、3Dプリンタに組み込まれた回転スピンドルと、水性ゲルを押し出して管状の移植片をプリント。次に、高電圧で細いナノファイバーを引き出して、生分解性ポリエステル分子で人工血管をコーティングするエレクトロスピニングで補強する2段階のプロセスを開発。このプロセスを用いることで、直径1mmから40mmの範囲で、人体に統合しやすい柔軟性を持つ3Dプリント血管が完成する。
これにより、バイパス手術で人間の静脈を除去することに伴う傷跡、痛み、感染症のリスクを軽減し、治療結果の改善を目指している。さらに、体内に統合するのが難しいことで知られる小型の合成グラフトの失敗を軽減する可能性もある。

3Dプリント血管の製造プロセスを示す図 

研究チームの行った試験では、3Dプリント血管は人間の血管と同等の強度を持つことが示されており、チームを率いるエジンバラ大学工学部で主任研究員を務めるノルバート・ラダシ博士は次のように結論づけた。「私たちの研究結果は、血管組織工学の分野における長年の課題、すなわち人間の静脈と類似した生体力学的特性を持つ導管を製造するという課題への取り組みです。 継続的な支援と協力により、心臓血管疾患患者のための治療選択肢の改善というビジョンが現実のものとなる可能性があります」


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