3Dプリンターで「生きた心臓組織」を再現

カナダの研究所が「生きた心臓組織」を3Dプリンターで作製、動物実験に代わる医療試験モデルを開発

カナダ・ブリティッシュコロンビア州のセントポール病院にある心肺イノベーションセンター(HLI)の研究チームが、患者自身の血液細胞を再プログラムして心筋細胞に変え、3Dプリント技術で組織を形成した「生きた心臓組織」の作製に成功した。この技術により、動物実験に頼らず薬剤や治療法を安全かつ迅速に試験できる「新しい医療モデル」が現実化しつつある。

このプロジェクトを率いるのは心臓専門医のザカリー・ラクスマン博士。彼らは患者の血液細胞を幹細胞へ変換し、さらに心筋細胞へと分化させて、3Dプリントで心臓組織を再現した。
この研究のために、エンジニア学生アルディン・サカヤナン氏が独自の3Dプリンターを設計し、博士課程のハッティ・ルオ氏が細胞の品質と分化条件を最適化。さらに心臓用の専用バイオインク(生体細胞を保護するゲル状材料)も自ら開発した。
市販の装置では再現できない繊細な動きや細胞配置を、独自の3Dプリント技術によって克服したチームは、わずか数センチの心臓組織でも、複数の薬剤を同時に試験できる「ハイスループットスクリーニング」が可能になった。これにより、動物実験を減らし、より安全で正確な薬の開発が加速する。

さらに、この生きた心臓は患者の遺伝情報をもとに作られており、個人ごとに最適な治療法を見つける「個別化医療」にも応用できる。ラクスマン博士は「この技術によって、安全で効果的な薬を、より早く市場に届けられます」と語る。

チームは今後、心臓の病気「周産期心筋症」の再現モデルや、損傷部分を修復する「心臓パッチ」の開発を進める予定で、将来的には、血管構造を含む“完全な臓器”の3Dプリントも視野に入れている。
ラクスマン博士は「3Dプリントによる生体組織の生成は、世界でもっとも刺激的な再生医療分野の一つです」と述べている。すでに同研究所のオセイ博士は3Dプリントによる“肺モデル”の開発にも成功しており、心臓だけでなく、多くの臓器再生へと応用が広がりつつある。


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