実際の骨構造を再現する3Dプリント技術により、患者ごとに最適化できる分解型人工骨
ニュー・サウス・ウェールズ大学の研究チームは、骨折や骨損傷の治療を大きく変える可能性を持つ3Dプリント製人工骨を開発した。本研究の目的は、患者ごとの骨構造に合わせて設計でき、治癒後には体内で自然に分解する人工骨を実現することにある。

従来の人工骨の多くは、規則的で単純な内部構造を持っていたが、実際の骨の内部構造は部位ごとに異なり、不規則で複雑な形状をしている。研究チームはこの点に着目し、不規則でランダム性を持つ「確率的格子構造」を採用した。
今回開発された人工骨は「ボーンスキャフォールド」と呼ばれる構造体で、損傷した骨の内部に埋め込まれ、骨が再生するまでの間、細胞が付着し成長するための足場として機能する。治癒が進むと素材は体内で自然に分解されるため、従来必要とされてきた人工骨の摘出手術を行う必要がなく、患者の身体的負担を大きく減らせる点が特長である。
人工骨の素材には、生体適合性が高く、医療分野でも広く使用されている生分解性樹脂PLAが用いられている。造形にあたっては、温度や材料の押し戻し量といった設定を細かく調整し、糸引きやたるみなど、3Dプリント時に起こりやすい問題を解消。これにより、微細で多孔質な内部構造を安定して再現することに成功している。
研究では、内部構造の向きが異なる複数の人工骨を作製し、力のかかり方による違いも検証された。その結果、ゆっくりと圧力を加えた場合よりも、転倒や事故のような瞬間的な衝撃に対して高いエネルギー吸収性能を示すことが分かった。衝撃時には素材が割れやすくなる一方で、エネルギーを効率よく吸収する性質があり、現実のケガの状況に適した特性を持つことが確認されている。

さらに重要なのが、血液や栄養分が人工骨内部を通過しやすい「流体透過性」である。骨の再生には、酸素や栄養が十分に行き渡ることが不可欠であり、今回の構造は強度と通気性・通液性を両立できる可能性を示している。設計によって強度や流れやすさを調整できるため、骨の部位や受ける負荷に応じて最適な人工骨を設計できる点も大きな利点である。
骨折や骨粗しょう症による治療ニーズは高齢化とともに増加しており、医療費の増大も社会的な課題となっている。こうした背景の中で、3Dプリンターを活用した分解型人工骨は、治療の安全性向上と医療コスト削減の両面で注目される技術である。現時点では臨床使用に向けた生体試験や長期評価、規制対応が必要だが、今後は骨だけでなく、軟骨や軟組織への応用も視野に入れた研究が進められており、より個別化された再生医療の実現に近づきつつある。
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