3Dプリントが切り開く未来の宇宙食

NASAとGrabCADは3Dプリント技術を活用した次世代バイオリアクター設計コンペを開催

NASAは、3Dデータ共有のオンラインコミュニティ兼プラットフォームである GrabCAD と共同で、長期宇宙ミッションにおける食料生産を実現するための「バイオリアクター(微生物や細胞などの生物を制御された環境で培養し、有用な物質を生産するための装置)」の設計コンペを開催している。

今回の取り組みは、NASAの「スペース合成生物学プロジェクト」の一環として行われもので、同プロジェクトでは、食糧となる微生物を宇宙空間で効率よく培養し、人間に必要な栄養素を生成する技術の開発を目指している。
遠く離れた宇宙空間では荷物の質量が重要な問題となるが、バイオリアクターで微生物を眠った状態のまま運び、必要なときに活性化させて増殖・生産を行うという仕組みであり、3Dプリントを用いれば必要な部品を現地で製造できるため、輸送コストの大幅な削減が見込める。

開催中のコンペでは、3Dプリント用の設計データを提出することで誰でも応募できるようになっており、背景情報と技術仕様が公開されているため、CAD知識を持つ人なら誰でも挑戦できる。
現在同コンペへの参加者は数名にとどまっているが、設計が採用されれば、宇宙空間で実際に3Dプリントされたバイオリアクターが稼働し、未来の宇宙飛行士たちに栄養豊富な「宇宙食」を提供する日がやって来るかもしれない。

バイオリアクターの課題と要件

本コンペで求められているのは、宇宙空間における微生物培養をサポートし、リサイクルまたは再利用が可能なバイオリアクターの設計である。培地・水・微生物は宇宙船側から供給されるが、以下のような条件を満たす必要がある。

液体培養の封じ込め

液体培養を安全に保持すると同時に、酸素や二酸化炭素などのガス交換を可能にし、最終的には食用物質を取り出せる構造であること。酵母発酵により、BN-1パック1個あたり約240mLのCO2が発生する。微小重力下では、発生したCO2ガスをバイオリアクターの多孔質膜から放出し、膜が詰まらないようにしつつ液体の漏出を防ぐ必要がある。また、微生物は代謝速度に応じてCO2を排出するため、培養液中に均一に分散すると考えられる。

デザイン要件

  1. 液体容量は30mL以上、100mL以下
  2. ガス交換(または酸素供給)による好気的培養をサポート
  3. pH範囲は4~8
  4. ヨーグルトやケフィア由来の微生物(S. cerevisiae、K. lactis、S. thermophilis、B. subtilisなど)の発酵に適した素材
  5. 食品安全性が高い素材を推奨(毒性が確認されている素材は要件を満たさない)
  6. 温度耐性は最低+4℃(39°F)~最高+82℃(180°F)
  7. 滅菌可能、または製造段階でコンタミフリーを実現できること
  8. 内容物が漏れない完全密閉構造
  9. ポートやルアーロックとの接続が可能
  10. 微生物や培地の導入に適したサイズであり、生成物を取り出す際も容易であること
  11. クルーが安全に扱えるよう、露出した鋭利な部分のない設計
  12. NASAの要件(SSP 57000, 3.12.8.2 および付録B)を満たすソフトグッズ(布や樹脂などの柔軟な素材)としての特性も考慮する

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