木を使わない3Dプリント製チェロ

3Dプリンターとカーボンファイバーで実現した割れず歪まない次世代チェロとバイオリン

米国のスタートアップ Forte3D は、3Dプリンターと3Dプリント技術を活用し、木材を使わないカーボンファイバー製のチェロとバイオリンを開発した。3Dプリント技術を活用することで、温度や湿度による反りや割れを防ぎ、誰でも扱いやすい楽器製作を実現した。

従来のチェロやバイオリンは、木材を削り出して作られてきたため、温度や湿度の変化によって反りや割れが生じやすく、取り扱いには常に注意が必要だった。Forte3Dはこの長年の課題に対し、3Dプリンターと3Dプリント技術を活用し、主要素材を木からカーボンファイバーへと置き換えることで解決を図った。3Dプリント製のチェロとバイオリンは、胴体のトップ板と裏板にカーボンファイバーを採用し、従来のように削り出すのではなく、フラットや緩やかな凹形状として設計されている。これにより、形状や厚みを設計段階から細かく調整でき、音の響きを構造的にコントロールすることが可能になった。

一方で、すべてを新素材に置き換えているわけではなく、魂柱やフィンガーボード、ブリッジといった音質に大きく影響する部品は従来の構造を踏襲し、必要な部分だけを最適な素材に置き換えるハイブリッド構造を採用している。これにより、木製楽器と同等の音質を保ちながら、環境変化に強く、衝撃にも耐えやすい楽器を実現した。演奏者は天候や移動時のリスクを過度に気にすることなく、安心して楽器を持ち運ぶことができる。

このチェロとバイオリンは、演奏性への配慮も徹底されている。弦の高さは演奏者ごとに最適な位置が異なるが、Forte3Dのチェロとバイオリンには弦高を調整できる機構が組み込まれており、付属の小さな工具を使って簡単に調整できる。弦が高すぎて指に負担がかかる、あるいは低すぎて正確な演奏が難しいといった問題を、演奏者自身が解決できる設計となっている。また、スムーズに動くペグやウルフトーン対策、正確なブリッジ位置を導くガイドなど、安定した演奏と音作りを支える工夫も盛り込まれている。

木製楽器と比較すると、3Dプリンターで製造されたカーボンファイバー製楽器は、耐久性や扱いやすさ、メンテナンス性において明確な利点を持つ。表面の手入れは布と一般的な家庭用クリーナーで十分であり、専用のケア用品を必要としない点は、初心者や教育現場にとっても大きなメリットである。価格面でも、設計データを活用した製造が可能なため、将来的にはより多くの人が弦楽器に触れられる環境づくりにつながると期待されている。

Forte3Dの創業者でありイェール大学の工学系学生でもあるイライジャ・リー氏は、起業家向け番組「Shark Tank」に出演し、「高価で壊れやすく持ち運びが難しい」という従来のチェロが抱える課題を解決することを目的に、先端素材と製造技術を組み合わせた新しい楽器づくりに挑戦。その結果、25万ドル(約4,000万円)の投資を獲得し、3Dプリンター製楽器の本格的な普及に向けて大きく前進した。


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