- 2025-10-24
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3Dプリンターを使って人の大腸を精巧に再現、薬物スクリーニングの常識を変える
米カリフォルニア大学アーバイン校(UC Irvine)の研究チームは、3Dプリンターと3Dプリント技術を駆使して「3D in vivo mimicking human colon(3D-IVM-HC)」と呼ばれるヒト大腸モデルを開発した。動物実験を使わずに、がん治療薬や新薬の効果を人間に近い環境で検証できる画期的な技術として、3Dプリント技術の医療応用に新たな道を開いている。

「3D-IVM-HC」は、わずか5×10ミリほどの小さなモデルがら、大腸特有の曲線や多層構造、そして細胞が入り込む“くぼみ”であるクリプトまで再現しており、実際のヒト組織にきわめて近い構造を持つ。
開発を主導したラヒム・エスファンディヤープール准教授によれば、この3Dプリンターを使った大腸モデルは、これまでの動物実験に代わる精度の高い検証手段になり得るという。従来、がん研究や薬物試験ではマウスなどの動物モデルが使われてきたが、実際に人間に適用すると毒性や反応性が大きく異なり、約半数の前臨床データが再現されないとされている。また、動物実験は倫理的問題や高いコストが避けられず、数百万ドル単位の研究費と数年単位の時間を要するのが一般的だ。今回の3Dプリント技術によるヒト細胞モデルは、そうした課題を根本から解決するアプローチとして誕生した。
この人工大腸は、ゼラチンメタクリレートとアルギン酸を混ぜたゲル状素材を3Dプリンターで精密に積層し、柔軟で生体に近い足場(スキャフォールド)を形成している。内側にはヒト大腸上皮細胞を配置し、外層には線維芽細胞を埋め込むことで、実際の大腸に近い“生きた環境”を再現した。こうして生まれた立体構造は、平面的な細胞培養よりも細胞間の相互作用が活発で、細胞密度は従来の約4倍に達した。さらに、モデル内に組み込まれたバイオエレクトロニクスが細胞の電気的反応やバリア機能をリアルタイムで測定できるため、薬剤の影響をより正確に把握できる。
実験では、抗がん剤「5-フルオロウラシル」を使用したところ、従来の平面培養に比べて約10倍高い濃度を投与しなければ同等の効果が得られなかった。これは、実際の患者腫瘍に見られる薬剤耐性を忠実に再現していることを示しており、3Dプリント技術によるこのモデルの再現性の高さを裏付けている。研究チームは、今後は患者自身のがん細胞を用いて“個別ミニ大腸”を作り、どの薬が最も効果的かを検証する「個別化医療」への応用を目指している。これにより、がん治療の成功率を高め、副作用を最小限に抑える治療計画の実現が期待される。

この技術の意義は、単なる3Dプリンターによる生体モデルの精密化にとどまらない。動物実験に頼らず、ヒト細胞に基づく検証を可能にすることで、研究の倫理性・効率性・コスト面をすべて向上させる新たなパラダイムを示している。研究者たちは、今回の成果を足がかりに、肝臓や肺、腎臓など他の臓器への応用も視野に入れており、「3Dプリント技術で人体の機能を再現する」未来が現実味を帯びつつある。
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