機械学習を活用したフィードバック制御でCNTヤーンの3Dプリント誤差を劇的に削減
東京理科大学の研究チームが、機械学習を活用して「3Dプリンター」によるCNT(カーボンナノチューブ)ヤーン印刷の精度を飛躍的に高める新手法を開発した。これにより、幾何学的誤差を約80%削減し、これまで困難だった微細で滑らかな曲線形状の造形を実現した。

印刷方向とねじれ角の関係 image : 東京理科大学
CNTヤーンとは、「カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)」を糸のように束ねた極細の繊維(ヤーン=糸)であり、鉄より強く、電気や熱もよく通すという特性を持つ先進素材である。これを3Dプリンターの材料として利用することで、軽量で高強度、かつ精密な造形が可能になる。しかし、CNTヤーンは非常に細く柔軟なため、印刷中の“ねじれ”や経路のずれが発生しやすく、高精度な制御が難しいという課題があった。

CNT糸を用いた3Dプリンティングの実験装置
東京理科大学の佐野純郎氏と松崎亮介氏による研究チームは、この課題を解決するため、機械学習を導入した自動補正システムを開発した。研究では、直径0.15mmのCNTヤーンと、従来の0.4mmカーボンファイバーフィラメントを使い、異なるねじれ角(-23°〜35°)で円形経路を3Dプリント。顕微鏡で半径偏差や幅の変化を測定し、そのデータをLightGBMという機械学習モデルに入力して解析した。さらに、SHAP(Shapley Additive exPlanations)解析を用いて、印刷精度に影響を与える要因を可視化した結果、最も重要なのはフィラメントの太さではなく「ヤーンのねじれ角」であることを発見した。

印刷方向とねじれ角の相互作用が、繊維の沈着位置を内側や外側にずらす原因であることを突き止めたことで、研究チームは新たなフィードバック制御モデルを構築。このモデルを3Dプリンターに反映したところ、半径誤差を79.3%削減し、わずか0.7mmという極小半径の円を高精度に出力することに成功した。モデルの予測精度もR²=0.891と高く、信頼性の高い制御であることが実証された。さらに、この手法を用いてドローン用アーム部品を実際に3Dプリントしたところ、従来方式では設計よりも縮みが生じたのに対し、機械学習制御を導入した印刷では設計通りの形状をほぼ再現できた。この成果は、軽量で高精度な複合材料部品の製造に大きな可能性をもたらすものであり、航空機やモビリティ、ロボットなど、幅広い産業分野での応用が期待されている。

補正なし(左)とあり(右)で印刷されたドローンアーム部品
今回の研究は、「機械学習による3Dプリントの自動補正」という新たな方向性を示している。CNTヤーンのような極細繊維材料を対象としたデータ駆動型の制御技術は、今後、金属・樹脂・生体材料など他の素材にも展開できる可能性があり、AIと3Dプリント技術が融合することで、設計自由度と製造精度を両立するスマート3Dプリンティング時代の幕開けを感じさせる成果である。
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