蒸発冷却という自然現象を応用し冷却装置なしで氷を3Dプリントする革新的技術
オランダ・アムステルダム大学(UvA)の物理学研究チームは、冷却装置や冷凍技術を一切使わず、自然現象を利用して氷を積み上げる3Dプリンター実験を実施した。目的は、蒸発冷却という身近な物理現象を応用し、氷を材料とした新しい3Dプリント技術の可能性を検証することにある。研究では高さ8センチの氷のクリスマスツリー造形に成功し、3Dプリンターの応用範囲を大きく広げる成果として注目されている。

今回の研究で用いられた3Dプリント技術の最大の特徴は、「冷やさずに凍らせる」点にある。一般的な3Dプリンターは、樹脂や金属を溶かして積み重ねる方式が主流であり、氷の造形では強力な冷却装置や極低温環境が必要とされてきた。研究チームが着目した蒸発冷却とは、液体が蒸発する際に周囲の熱を奪うことで温度が下がる現象で、人が汗をかいて涼しく感じる仕組みと同じである。この原理を応用し、研究者たちは低圧の真空チャンバー内で水を噴射する3Dプリンター構成を開発した。
真空環境では水が常温でも急速に蒸発し、その過程で熱が奪われる。研究では、髪の毛ほどの太さ(約16マイクロメートル)の極細水流を噴射し、下層の氷に触れた瞬間に凍結させる。この工程を1層ずつ繰り返すことで、支持材を使わず、わずか26分で氷の立体構造を完成させた。この手法は、2022年に米カーネギーメロン大学が発表した極低温下での氷3Dプリント技術とは対照的である。従来技術はマイナス35度の冷却基板が必要だったのに対し、今回の3Dプリント技術は装置の簡素化と高い視認性を実現している点が大きな進歩となる。

氷という身近な物質と3Dプリンター、そして自然の物理法則を組み合わせた今回の3Dプリント技術は、製造技術の未来だけでなく、科学教育や宇宙開発まで視野に入れた新たな可能性を示している。
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