3Dプリント業界が迎える2025年の転機

業界リーダーが語る2024年の混乱からの脱却と3Dプリント技術がもたらす未来への期待

2024年に急速な投資の冷え込みや業界再編を経験した3Dプリント業界は、2025年に大きな転機を迎える見通しである。3Dプリンタメーカー、材料メーカー、ソフトウェア企業など、Additive Manufacturing製造に関わるプレイヤーは「本質的な価値を証明することが必要な年だ」と業界リーダーたちは口をそろえている。しかし、2024年末に開催されたFormnext Expoでは「3Dプリント技術自体の信頼性や将来性は揺らいでいない」というポジティブな声も多く、業界全体の共通認識である。投資やマクロ経済の影響で一時的に逆風が吹いたものの、長期的にはAM製造の潜在力はこれから花開くという見方が業界関係者の間で根強く存在している。

Photo : Darko Todorovic

一方で、2024年には複数の企業が市場から撤退し、上場廃止や大型買収のニュースが相次いだ。株式市場や一般メディアからは「3Dプリント産業は過大評価だったのではないか」という批判的な報道もあった。しかし、実際に3Dプリントを活用しているユーザー企業や業界内部ではむしろ必要な淘汰が進み、今後は実力のある企業がより注目されるとの期待感が強い。

ここでは、2024年の厳しい投資環境を経て、3Dプリント業界が2025年にどのような変化を迎えるのか、海外メディアによる主要企業のリーダー達へのインタビュー内容を紹介したい。プリンターメーカーや材料メーカー、ソフトウェア企業はどのようにこの転機を捉えているのか、最前線の声を紹介する。

Q:2024年は投資の冷え込みや業界再編など、3Dプリント業界にとって逆風の年でしたが2025年の見通しはどうでしょうか。

HP 3Dプリント部門 シニアバイスプレジデント アレックス・モニーノ氏
私たちのビジョンは変わっておりません。3Dプリント技術が主流の製造手段になると確信していますが、思ったより時間がかかっているのも事実です。2024年の市場縮小は金利の上昇や資金調達の難化、従来型の製造方法が十分機能している企業の存在など、いくつかの要因が重なった結果だと考えています。ただし、それらは一時的な現象であり、2025年以降は再びポジティブな流れが戻ると見込んでいます。

Q:一部では「過剰な期待だったのではないか」という声もありますが、技術そのものに対して懸念はないのでしょうか。

Materialise CEO ブリジット・ド・ヴェット氏
3Dプリント業界への世間の見方が厳しくなったように見えるのは、いわゆる“成長痛”だと捉えています。技術の可能性自体が揺らいでいるとは思っていません。むしろ今こそ、真に機能するアプリケーションやサービスを提示することで、業界としての価値を明確にするチャンスだと考えています。

Ryse 3D CEO ミッチェル・バーンズ氏

Q:大手企業の撤退や合併、上場廃止など、メディアで大きく取り上げられました。現場ではどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか。

Dynamism CEO ダグラス・クローン氏
市場から撤退した企業は確かにありましたが、その結果として本気で3Dプリントを活用したい企業がより注目されるようになったともいえます。私たちの顧客層を見ても、3Dプリントを事業戦略の中心に据えようという動きがいっそう活発になっています。2025年は、こうした企業が技術やビジネスモデルをさらに磨き上げ、業界全体として大きく成長する年になると期待しています。

Q:技術普及のカギはどこにあるのでしょうか。プリンターや材料の売り上げだけが指標というわけではないですよね。

Carbon CEO フィル・デシモーネ氏
おっしゃるとおり、単にプリンターを売るのではなく顧客の製造課題を解決するソリューションを売ることが重要だと考えています。プリンターや材料、ソフトウェアの提供だけでなく、その先にあるビジネス面の成果をどれだけ支援できるかがポイントです。過去には過剰な宣伝や期待値の高さがありましたが、それらが落ち着いた今だからこそ、現実的な成功事例を積み重ねていく好機だと思っています。

Untrasint PPを使用した3Dプリント部品 Photo : Forward AM

Q:2025年に向けて3Dプリント業界をさらに盛り上げるために必要だと感じていらっしゃることは何でしょうか。

UltiMaker CEO ミヒール・アルティング・フォン・ヘウザウ氏
投資や規格整備、人材育成など、まだまだ課題は多いと認識しています。それでも、3Dプリントは依然として“成長中の技術”ですので、引き続き資金とリソースを投入し続ける必要があると思います。過度な“万能感”が落ち着いた今こそ、地に足をつけたかたちで拡大していく準備が整ったと考えています。

Q:金属3Dプリントや防衛分野など、特定産業での需要拡大が期待されています。実際の見通しはいかがでしょうか。

Nikon Advanced Manufacturing CEO ハミド・ザリンガラム氏
防衛産業の需要は大きく伸びる可能性があります。3Dプリントならではの軽量化や一体成形、サプライチェーンのリスク低減などのメリットが注目されているからです。私たちは技術センターを設けており、お客様が金属3Dプリントを試作から量産までスムーズに行える環境を用意しています。もちろん課題はありますが、認証プロセスの整備が進めば、本格的な普及はそう遠くないと思います。

米海軍は2024年に前例のないレベルで3Dプリントを導入

Q:最後に、2025年をどのような年にしたいかを教えてください。

EOS America プレジデント グリン・フレッチャー氏
3Dプリントの分野に携わって40年近くになりますが、こんなにも将来性を感じられる時代は初めてだと実感しています。厳しい視線で見られていた時期を乗り越えつつある今こそ、応用範囲の広さや信頼性をさらに高めていきたいです。2025年は、アディティブ製造が次の段階へ進むための重要な節目になると考えています。
The Barnes Global Advisors プレジデント ジョン・バーンズ
金属粉末など材料分野への新規参入が続いていることからも、ものづくりへの情熱が衰えていないことを感じています。2025年は、多種多様な合金や素材が登場し、3Dプリントの可能性をより広げるターニングポイントになるでしょう。こうした動きが産業全体を革新する原動力になると期待しています。

投資家やメディアの厳しい目が向けられる中でも、3Dプリント業界のリーダーたちは口をそろえて「技術の将来性は揺るがない」と語っている。過度な期待が落ち着いた今こそ、実績を積み重ね、さらなる応用領域を広げていく絶好の機会であるといえよう。2025年が3Dプリント技術にとって飛躍の年になるのか、その行方を注視したい。


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