StratasysによるBambu Labへの訴訟が3Dプリンティング業界もたらす影響

StratasysによるBambu Labへの特許提訴に対しオープンソースの専門家や業界関係者が警鐘を鳴らす

先の「Stratasys、特許侵害でBambu Labを提訴」で報じた通り、FDM方式の3Dプリンティング技術に関する特許を保有していた3Dプリンタメーカー Stratasys(以下 ストラタシス)は、FDM/FFF方式デスクトップ3Dプリンター市場で圧倒的シェアを有する Bambu Lab に対し、同社が有する10件の特許を侵害していると主張し、損害賠償や法的費用、さらには将来的な3Dプリンター販売禁止を求める訴訟を起こしている。この訴訟は、3Dプリンティング業界に大きな衝撃を与え、特にオープンソースの専門家たちから強い反発が寄せられていると、海外メディアが報じている。

Image : 3D Printing Industry

RepRapプロジェクトの創設者であるエイドリアン・ボウヤー博士や、ウェスタン大学のジョシュア・ピアース博士、オープンソースハードウェア協会(OSHWA)の理事であるマイケル・ワインバーグ氏らの専門家は、Stratasysが勝訴した場合、他の3Dプリンターメーカーに及ぼす影響や、オープンソース技術の将来に対する懸念など、この訴訟について以下のような意見を述べている。

ピアース博士は、この訴訟が知的財産の「武器化」につながる可能性があると指摘。「イノベーションが減速するだけでなく、消費者にとってのコストが増えるだけで、技術的な進歩は見られないだろう」と述べている。一方、特許訴訟の専門家であるスピッツァー氏は、Stratasysの特許が守られた場合、3Dプリンティング業界に「大きな変革」が起こり、Stratasysが業界の「門番」となる可能性があると警告している。

エイドリアン・ボウヤー博士 Photo : Phaidon

この訴訟に対する反発は一様ではなく、一部の業界関係者からは支持も寄せられている。Prusa ResearchのCEOであるヨセフ・プルサ氏は、Bambu Labが自社の特許活動を強化していることを指摘し、この訴訟を「正当な対応」として擁護している。

特許争いが3Dプリンティング業界に与える影響は?

Stratasysが提起した特許侵害の主張は、Bambu Labの主要な3DプリンターであるX1C、X1E、P1S、P1P、A1、A1 miniに関連している。これらの特許は、パージタワー、加熱ビルドプラットフォーム、ツールヘッドの力検知、ネットワーク機能など、3Dプリンターに広く使われている機能に関するものだが、これらの機能は、現在市場に出回っているほとんどのデスクトップFDM/FFF方式3Dプリンターに搭載されており、これが他のメーカーにどのような影響を与えるかという疑問が生じている。

Bambu Lab P1S Combo 3Dプリンター

OSHWAのワインバーグ氏は、他のOEMメーカーも将来の訴訟を避けるため、これらの特許に似たデザインを製品から排除する動きが出てくるだろうと述べているが、特許訴訟に長けた弁護士のアラン・ラクアー氏は「Stratasysが勝訴したとしても、他の3Dプリンターメーカーの特許が無効にまるわけでなく、法廷で自らの主張を展開できるが、訴訟で”実戦テスト済み”とされた特許は、一般的な特許争いにおいてより強力なツールとみなされるでしょう」と指摘。

一方で、この訴訟が行われる過程で、特許の技術的な詳細が明らかになり、それが業界にとって有益になる可能性もある。たとえ被告が特許侵害を犯していると判断されたとしても、特許回避のための別の設計方法が明らかになる可能性がある。と、ラクアー氏は付け加えている。

StratasysがBambu Labを提訴した理由

今回の訴訟は、Bambu Labの急成長と市場シェア拡大が、Stratasysを含む他の大手メーカーに大きな影響を与えていることが背景にあると考えられる。Bambu Labは、より手頃な価格で工業用FDM/FFF方式3Dプリンターと同等の機能を提供し、多くのユーザーの支持を集めている。市場調査会社CONTEXTのデータによると、2023年Q4にはエントリーレベルの3Dプリンターの出荷台数が35%増加し、2024年Q1にはさらに26%増加した。これに対し、Stratasysのような中・高価格帯のプロフェッショナル向けモデルは、それぞれ7%と34%の減少を記録している。

このような市場シフトの中で起こされた訴訟は、その動機についてもさまざまな憶測を呼んでいる。公式には、StratasysはBambu Labによる特許侵害の宣言、損害賠償、そして問題の3Dプリンターの販売禁止を求めているが、これらの要求が実現するには、法廷での勝訴が必要となる。しかし、特許訴訟は通常5年から10年の年月が掛かることが多く、多額の法的費用が発生することが一般的だ。このため一部の専門家は、StratasysがBambu Labとの和解を模索しているのではないかと見ている。和解のシナリオとしては、Bambu Labがライセンス料を支払い続けるか、特許を回避するために製品設計を変更して販売を続けることが考えられる。ラクアー氏によれば、特許訴訟が実際に裁判に持ち込まれる確率は3%未満であり、多くの場合、訴訟当事者は訴訟の進展に伴い、自分たちの強みや弱点を評価し、和解に向かう傾向があると述べている。

Stratasysが他社を特許侵害で訴えたのは今回が初めてではない。2013年には、Microboards Technologyのブランド「Afinia」に対して特許訴訟を提起し、2015年に和解している。この時もStratasysの特許は法廷で認められたが、Afiniaはその後業界から姿を消しており、この訴訟が同社にとって大きな打撃となったと考えられている。

この訴訟の結果は、3Dプリンティング業界全体に大きな影響を与える可能性があり、特にオープンソースコミュニティにとって注目の的となっている。特許の有効性や、それによる技術革新の抑制が今後どのように進展するか、業界全体が注視している。


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