菌糸体と3Dプリント技術で育てる建築

3Dプリント技術で菌糸体を型内で育てるパネルを木材フレームに装着した「バイオ・ハイブリッド・パビリオン」

韓国ソウルに拠点を置く建築事務所 Yong Ju Lee Architecture は、3Dプリンターで作ったカスタム型の中で菌糸体を育て、木骨フレームに取り付ける「バイオ・ハイブリッド・パビリオン」をソウル工科大学キャンパスに設置した。

images : Yong Ju Lee Architecture

菌糸体は、コンクリートのような無機系材料と異なり再生・堆肥化が可能で、ライフサイクル末期の環境負荷を抑えられる。一方で、コンクリートは世界のCO₂排出の約8%を占めるとされ、代替や低炭素化の選択肢が社会的課題となっている。
本プロジェクトは、ロボット制御の3Dプリンターで専用の成形型を製作し、その内部で菌糸体を育成してパネル化する手法を採用。チームは複数の菌糸体ベース配合を比較し、型内での成長性、取り扱い性、強度のバランスを検証した上で最適条件を選定。出来上がったパネルは木製フレームに外装として取り付け、実寸のパビリオンとして公開した。

本プロジェクトの評価は多角的で、肯定面として以下の項目を上げている。

  1. 型を3Dプリンターで作るため形状自由度と材料歩留まりが高い
  2. 低温・低エネルギーで成形できるため製造時負荷を抑えやすい
  3. 廃棄時に生分解が期待できる

一方で、課題面として以下の項目を上げている。

  1. 耐水・耐火・長期耐久の標準化
  2. 湿度や温度など生育条件の品質管理
  3. 建築規格・消防法令への適合などが挙げられている

本プロジェクトは実寸の屋外構造で検証した点に価値があるが、長期モニタリングや標準規格への翻訳が今後の論点となるだろう。

3Dプリンターの建築活用は拡大し続けており、背景には、建築分野で拡大する「新素材×新製造」の流れがある。今回のように「型そのものを3Dプリントして生物素材を成長させる」という発想は、製造と材料を一体で再設計する次の段階を示している。今後は、木質・土質・バイオベース材料と3Dプリント技術の協働により、地域資源を活かした分散型ものづくりが期待される。


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