気候変動に挑む3Dプリント防波壁

3Dプリント技術で海の生物多様性と水質改善を実現する防波壁プロジェクト始動

米国フロリダ国際大学(FIU)の研究チームは、米国科学財団(NSF)と環境保護庁(EPA)の支援を受け、3Dプリント技術を用いて作られたコンクリート製タイルを既存の防波壁に取り付け、都市沿岸の生態系回復を目指すプロジェクト「Biodiversity Improvement by Optimizing Coastal Adaptation and Performance 略称 BIOCAP(生物多様性の向上を目的とした海岸適応性能の最適化)」を展開。2025年春からマイアミ市内の公園で実地試験を開始した。

防波堤に設置されるBIOCAPタイルの完成予想図 Photo : Sara Pezeshk

従来の防波壁は波を遮断する構造が中心で、生物の住処を奪う一因にもなっていたが、BIOCAPが3Dプリント技術を用いて製作したコンクリート製タイルは、自然の海岸線を模倣した凸凹のある形状や、日陰になる凹部、海水を保持するポケットなどを備えており、生物が定着しやすい微細な環境(マイクロハビタット)を形成する。これによりカキ、フジツボ、海綿などの濾過性の生物が集まり、水の濁りや栄養過多の改善にも貢献する。

3DプリントされたBIOCAPタイル

3Dプリントは、従来の型枠では不可能な複雑な模様や形状、凹凸、空孔の制御が可能で、フロリダ沿岸のサンゴや石灰岩に見られる自然パターンに着想を得たデザインを採用している。ヴォロノイ図形をベースとした構造で構成されたこれらのタイルは、根のように自然に広がり、波や砂の動きにも柔軟に適応する設計がなされている。

設置後の検証では、3年間のモニタリング期間を設け、水中カメラでの生物観察のほか、pHや溶存酸素、塩分濃度、濁度、温度などを測定する。また、リアルタイムセンサーも組み込まれ、波力の測定によって、BIOCAPが従来型の垂直壁よりもどれだけエネルギーを吸収できるかも分析される予定だ。
今後、マイアミでの実証実験の成果が明らかになれば、世界中の都市海岸への応用が期待される。


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